望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

歌詞から見えるもの

 ♪「未来に向かって〜」とか♪「明日に向かって〜」、♪「夢をかなえる〜」、♪「希望の花が〜」、♪「夢の未来〜」、♪「君が見る明日の〜」、♪「夢を重ねて〜」、♪「夢と現実を〜」、♪「果てしなく続く〜」、♪「永遠の希望〜」などといった言葉はJポップや歌謡曲に珍しくない。

 明日だの未来だのを持ち出すが、明日のことや未来のことを真剣に考えているわけではなく、前向きな気分を示す言葉として用いているだけで、実質的な意味はない。夢や希望という言葉もよく歌われるが、具体的な何かの夢や希望を示すことは少なく、前向きな気分を示すとともに、聞き手を励ます意図だったりする。

 一方では、♪「愛する心に〜」とか♪「抜け殻を集める〜」、♪「迷い込んだ夜〜」、♪「さすらいの酒を〜」、♪「風になって遊ぶ〜」、♪「本当の姿〜」、♪「人生を変える〜」、♪「女の幸せ〜」、♪「時を駆ける〜」、♪「いつでも変えられる〜」、♪「誓い合った〜」、♪「諦めないで〜」などの言葉も歌われる。

 これらは具体的なことを語っているようだが、例えば「女の幸せ」といっても、その実態は人それぞれであるように、実は、個別の具体的なことではなく、一般的な感情などを歌詞にして歌っているだけだ。一般的な感情などであるから、聞き手はそれを自分の感情に落としこんで共感できるという仕掛けだ。

 Jポップや歌謡曲の歌詞に対して、「内容がない言葉の羅列だ」とか「意味がおかしな文句がある」などの批判は以前からある。奇妙な歌詞を取り上げて笑いのネタにしていた漫才師がいたように、おかしな歌詞があることは周知のことだった。Jポップになってからは、英語の奇妙なフレーズが増え、グローバル化した?

 自作自演の歌い手が無内容の歌詞を歌っていたりすると、「この人には、もう歌いたいことがないのか」と感じたりする。とはいえ、あまり具体的すぎる歌詞で感情移入タップリで歌われると、聞き手は時にはうんざりするほどの“満腹感”を抱かせられるから、歌詞は具体的であればいいとは単純にいえない。

 ロックバンドならボーカルの歌う歌詞はほとんど聞き取れないから、歌詞は何でもいいという考え方もあろう。Jポップや歌謡曲でも歌詞は、気分を伝えたり、気分を共有したり、聞き手を楽しくさせるものなら何でもいいのかもしれない。聞き手はJポップや歌謡曲の歌詞に、壮大な物語世界も情念のほとばしりも、文学的な達成なども求めていないのだろうから。