望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

収集して保存

 世界で既知の総種数は約175万種で、哺乳類が約6000種、鳥類が約9000種、昆虫が約95万種、維管束植物は約27万種という(環境省HP。維管束植物はシダ植物と種子植物裸子植物被子植物=で、菌類や藻類やコケ類は別)。世界中で研究者が探し回って発見した種のデータが共有され、膨大なデータが蓄積され精査されて分類されて系統樹が作成された。収集して分類するのは学問の基本的な方法だ。

 収集して分類することが有効なのは学問に限ったことではない。例えば、ロシアのウクライナ侵攻やイスラエルのガザ侵攻などを正確に理解するには、多方面からの情報を集めて精査することが必要だろうし、西洋美術史を知るにはギリシア美術から中世の美術、ルネサンス美術、バロック美術、近代美術などの作品を多く見て、表現の対象や技法の変遷などを整理して理解することが必要だ。

 浮世絵は日本独自の表現作品で世界に多くのファンがいて、現代では日本で独自に発展した漫画やアニメにも世界に多くのファンがいる。だが、浮世絵に特化した国立の美術館はなく、多くの美術館や博物館で展示が行われているだけだ。浮世絵は高価になるとともに世界中のコレクターが収集対象にしているので、これから国立の浮世絵美術館をつくろうとすると相応の金額を要するだろう。

 漫画やアニメの国立の美術館も日本にはない。2009年に当時の麻生首相が、アニメや漫画・映画・ゲームなどを展示する国立メディア芸術総合センターの建設に動いたが、約120億円の整備費が無駄遣いだとか、「アニメの殿堂」「国営マンガ喫茶」などと批判が多く、政権交代後の民主党政権が計画を中止した。昨年、政府が漫画やアニメの原画を扱う国立美術館などの建設を検討していると報じられた。訪日外国人の増加に向けた施策だという。

 浮世絵の美術的価値を最初に認識したのは19世紀のフランスなど欧州諸国だった。日本で美術館や博物館が建設されるまでには年月を要し、浮世絵の収集などの優先順位は低かっただろう。漫画やアニメなどは現代日本の特色ある表現作品であり、その美術的価値は高く、漫画やアニメなどを収集して分類し、日本の漫画やアニメの系統樹を作成することは必要だ。漫画もアニメも大衆芸術で、見終わったなら忘れられ、捨てられる。今、保存しなければ大半が消えていくだけだろう。

 浮世絵も漫画・アニメも平面(二次元)の表現だ。政府のアニメ美術館の建設計画は旧来の発想にとらわれ、公共事業でハコモノを建設することに固執している。漫画やアニメの作品量は膨大であり、ハコモノを建設しても展示できるのはごく少数でしかない。二次元の表現はディスプレー画面によく馴染む。ハコモノの代わりに専用のデータセンターを建設し、そこに漫画やアニメなどのデータをストックするなら全く新しい美術館が誕生する。

 今後も漫画やアニメ作品は増え続けるだろうから、データセンター形式の美術館なら必要に応じて容量を拡大できる。作品はスマホやPCなどで見ることができ、世界中からアクセスできるので、日本に関心を持つ外国人もさらに増えるだろう。さらに浮世絵も加えるなら、日本の美術史を概観できる美術館になる。漫画やアニメを収集して保存する作業は日本にしかできない。