望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり





浮世絵だけじゃない

 浮世絵というと日本人は、西洋の印象派に強い影響を与えたと自慢する。立体的な表現スタイルに縛られていた欧州の画家達に浮世絵は、平面という2次元世界の表現の新しい可能性を実地に示した。なにより浮世絵は、見てすぐ分かる面白さが共感されたのかもしれない。



 日本が近代化の手本・指標とした西洋。その西洋の「芸術」の重要な分野である絵画の表現に日本の浮世絵が影響を与えたということが、日本が西洋と対等になった気にさせる幻覚作用を生じさせたのかもしれない。エッヘン、日本の絵画だってスゴイんだぞと。



 日本が西洋のものを取り入れたと同様に西洋は非西洋世界のものを取り入れた。異質なものを取り入れることによって文化は刺激を受け、様々な価値観との交流により発展する。西洋絵画が取り入れたのは浮世絵だけじゃない。例えば、西洋が植民地としたアフリカのアートからも大きな影響を受けた。キュビズムが代表例だ。



 アフリカ美術は日本ではマイナーな存在だ。今ではエスニックアートに分類されるが、作家性が希薄なこともあって一昔前はプリミティブアートとか原始美術などと呼ばれていたこともある。しかし、欧州ではアフリカ美術の人気はもっと高い。専門書も多く出ていて、欧州の文化人の書斎の写真を見ると、アフリカの彫刻や仮面が置かれている様子を見ることは珍しくない。

 アフリカ美術は多彩だ。広大な土地の各地に多くの民族がいて、それぞれに独自のスタイルの仮面、彫刻をつくっている。浮世絵が2次元に徹した表現であるのに対し、アフリカ美術は大胆な造形が素晴しい。想像力を3次元世界に解放した表現と言いたくなるほどだ。



 シーボルトが日本から持ち帰った浮世絵等はオランダの国立民族学博物館に収蔵されているという。おそらくアフリカ美術の作品も同館にあるだろう。欧州から見ると浮世絵もアフリカ美術も、美術品というより文化財として扱われているのかもしれない。