2009年に、北朝鮮の次期後継者との報道が相次いでいた金正雲が密かに訪中していたと朝日新聞が報じた。訪中は極秘にされ、一行は隠密行動し、中国軍宿舎に泊まっていたという。これが本当なら北朝鮮の後継者問題はほぼ確定的だというわけで、北京にいる各国の報道陣は確認に走ったという。
金正雲の訪中の真偽はさておいて、週刊新潮はさっそく「誤報を認めようとしない朝日新聞」と朝日新聞をオチョくった。朝日新聞阪神支局襲撃事件の連載で誤報を載せ続け、大恥をかいた週刊新潮としては、朝日新聞を罵倒するいい機会だと飛びついたのだろうが、いささか情けない内容だった。
週刊新潮は、朝日新聞が報じた金正雲訪中を独自の取材により反証を発掘して否定したわけではなく、中国外務省の報道官が否定していることを根拠にしていた。あれれ、いつから週刊新潮は中国外務省の言うことを素直に信じるようになったのかしら? 中国外務省の報道官の発言に飛びつき、「朝日新聞は誤報だ」と溜飲を下げたが、それが逆に週刊新潮の姿勢のふらつきを浮き彫りにした。
週刊新潮が頼りにした中国外務省だが、彼らは常に「真実」を言うのかねえ。毒ギョウザ事件で中国外務省の報道官は何と言っていたか。彼の地では「真実」より「政治」が優先するのはよくあること。
朝日新聞を叩きたい週刊新潮は、朝日新聞を批判した中国外務省をつい「味方」だと歓迎し、朝日新聞を批判するために利用できるものは何でも利用してやれと中国外務省の報道官の発言に頼ったのだろう。
週刊新潮は自らの誤報の連載について弁解はしたが、客観的な検証はしなかった。報道機関であるなら致命的な誤報だったが、新潮社の「自己認識」は報道機関ではないのだろう。おそらく朝日新聞叩きは週刊新潮の営業戦略、つまり朝日新聞に反感を持つ読者層に売るためだ。そのうちに、北朝鮮が朝日新聞を批判したなら週刊新潮は喜んで、北朝鮮の言うことを無批判に利用して記事にするかもしれない。
朝日新聞を目の敵にする人々は、何を憎んでいるのだろうか。朝日新聞にはリベラルとのイメージがあるようだが、実際は保守的だ。ある朝日新聞販売店の人は「最近、内容がつまらないという購読者の声が多いんですよ」と言っていたが、そんな印象も確かにある。
おそらく「反日的」な仮想敵として朝日新聞は位置づけられている。反日の基準は批判者の主観であり、朝日新聞の紙面がどう変化しようと、反日的とのレッテル貼りは変わらない。つまり、朝日新聞を批判する行為自体が目的化している。
いつか、朝日新聞の紙面が産經新聞と同じようになった日が来ると、どんな社会になっているやら。息苦しそうなのは間違いない。そんな時代にも週刊新潮は、各国の「大本営」発表を頼りに朝日新聞叩きを続けているのだろうか。