望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり





多国籍企業と納税

 米上院の行政監察小委員会が2013年、米アップルが海外子会社などを活用して巨額の課税逃れを行っていたとする調査報告書を公表した。その内容は、アップルが09~12年に740億ドルの利益を米国から海外に移転、うち440億ドル分について課税を逃れ、「アイルランドを実質的なタックスヘイブンとして活用している」というもの。

 上院の公聴会でアップルは、①米での法人税の支払い回避のため巨額の利益を海外に移転、②アイルランドにある子会社が過去5年、どの国にも法人所得税を納めていない、③アイルランドを一連の海外持ち株会社の拠点として、同国政府と2%以下の法人税件率の適用を受けることで合意−−が追及され、ティム・クックCEOは“不正”を否定し、「アップルは支払うべき税金は支払う」と証言したという。

 アップルは40年ほど前にアイルランドで事業を始め、大規模な税の優遇措置を受けたという。同国最大の多国籍企業になったが、同国と米国の税制の違いを利用している疑いがかけられている。アイルランドでは、法人の実態がある場所で課税されるが、米国では企業を設立した書類上の場所で課税される。運営の実権を米国に残したままアイルランドに会社を設立すると、米国でもアイルランドでも法人税を払わなくてすむという抜け道。

 多国籍企業が“節税”している例では、英のスターバックスも批判された。スタバは1998年に英に進出したが、課税対象となる利益が発生した年は1年だけ。そのカラクリは、①コーヒー豆をスイスの子会社を経由して2割増しで買う、②コーヒー製法の知的財産権や商標権の使用料をオランダの欧州本社に納める。税率が低いスイスやオランダに利益を移転し、英での利益を圧縮していた。

 米アマゾンはルクセンブルク、グーグルはアイルランドを利用して英での税金支払いを抑えており、3社は英議会の公聴会に呼ばれ、英で事業を行っているのに「十分な税金を英経済に還元していない」ことなど批判された。消費者からの反発も高まり、スタバは13年から2年間、利益に関係なく計2千万ポンド(約26億円)の法人税を払うことで英当局と合意した。

 税率が低い国を利用し、複雑な会計処理を駆使して“節税”に務めることは日本企業を含め多国籍企業では一般的に行われていて、多国籍企業が世界各地に積み上げている資金は莫大だともいう。緊縮財政で忍耐を強いられる民衆が多国籍企業を見る目は、より厳しくなりそうだ。

 日本でも多くの多国籍企業が活動しているが、その納税状況は“問題”にはなっていない。多国籍企業は日本では正直に税金を払っている……とも思われず、実態調査が必要だ。日本のマスコミが丹念に多国籍企業の資金の流れを調べて報じ、日本の政治家が実態に切り込む日が待たれるが、疑惑が放置されていたオリンパスの例のように、マスコミや政治家に多くを期待できそうにないのがツライところ。