望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

発情期の動物

 京都府福知山市で、胸に刺し傷のある60代の男性が田んぼで倒れているのが見つかり、死亡が確認された。田んぼには野生のオス鹿1頭がいたと目撃されており、角で刺された可能性があると警察は調べているという。鹿の角はかなり硬く、先が尖っているので、鹿が勢いよく人間に向かってきたりすると危険だ。

 奈良公園では、鹿の角が観光客の足に刺さって負傷する事故が9月に43件あり、前年比2.5倍になるなど、観光客がシカの角で負傷する事故が相次いでいると報じられた。鹿の発情期は9〜11月頃で、オス鹿は非常に気が荒くなるので、不用意に近づいたり、触れたりするのは危険だと注意喚起されている。草食動物の鹿はおとなしそうに見えるが、実は力が非常に強い動物だそうだ。

 発情期にオス鹿が気が荒く攻撃的になるのは交尾の相手を求めることと、他のオス鹿とメスを巡って争うからだ。野生動物には発情期があり、気が荒くなったオス同士が激しく争う場面はテレビの自然番組でよく見かけるシーンだ。哺乳動物で発情期がないのはヒト以外ではネズミ類だという(野生では肉食動物のエサになるから、常に繁殖するようになったと考えられている)。

 争いに勝った強いオスが交尾相手を獲得して子孫を残す仕組みは自然淘汰の重要な要素だろうが、出産した子供を連れているメスは他の肉食動物に狙われやすくなる。発情期と子育て期が一定期間に限定されるのは、野生動物が確実に子孫を育てる可能性を高めるための仕組みだろう。発情期には動物のオスが攻撃的になり、子育て期には子供を守るためにメスが攻撃的になる。

 多くの人が身近で見かける発情期はネコやイヌのそれだろう。ネコやイヌでは発情するのはメスで、オスはメスの匂いなどに反応して、異様な声で鳴いたり、遠吠えしたり、メスをめぐって他のオスと争ったりする(発情期とは「哺乳類などが交尾可能な状態にあり、交尾を求める行動をする時期。繁殖周期の中でメスがオスを受け入れる期間」)。また、野生のウサギには発情期があるが、飼われているウサギには発情期がなくなり、繁殖は年中可能になるという。

 発情期のネコやイヌの狂おしいような鳴き声を聞いたりすると、自然の摂理に突き動かされ、異様な行動をするようになる動物の哀れさに思いを寄せたりもする。だが、繁殖の実現による「種の保存」が最重要だというのが自然の法則だとすると、動物に発情期があり、否応なく動物が進んで交尾に向かうという仕組みは、うまくできている。種の保存が本能として動物には組み込まれているのだ。

 ヒトは常に繁殖可能だ。常に発情しているともいえるが、多くの人にとっては10代〜30代ほどが発情期に相当するか(個人差は大きいだろう)。生まれた子供が成人するまでに長期を要し、手間も要するのでヒトにとって発情期よりも子育て期間のほうが「種の保存」のために重要だ。動物の多くは子育てをメスだけで行うが、ヒトではオスも子育てに参加する(個人差はある)。家族の形成と発情期の有無には何らかの関係があるのかもしれない。