望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

不動産バブルの重し

 中国は、官による膨大な公共投資と民による過剰な不動産投資を内需拡大の両輪として高成長を続けてきた。過剰な不動産投資で都市部などにマンションが陸続と建てられたが、居住者がいない空き住戸が2億戸以上と推定されるほど、需要を無視した不動産開発だった。その不動産バブルが崩壊し、中国経済の低調が伝えられる。

 金融緩和や財政出動などが必要だと見られていたが、中国政府は不動産バブル崩壊の処理に手間取っていた。今年9月以降に中国政府は景気刺激策を相次いで発表、それは▽預金準備率を0.5%引き下げ市中に出回る金を増やす▽融資済みの住宅ローン金利を引き下げ▽特別国債を発行して大手国有銀行に資本注入(銀行の健全性を高める)▽優良な住宅開発案件への銀行の融資を促す制度を拡大(不動産開発会社の資金繰りを支援)▽上場企業の自社株買いに対する融資枠3000億元を設定(株式市場支援策)ーなどだ。

 ゾンビ化した不動産企業が多すぎるとともに負債額が大きすぎて、破綻処理すると多くの地方政府や金融機関が傾くので見守るしかできず、中国政府は不動産バブル崩壊に無力だった。不動産バブル崩壊で日本は国債を増発して景気刺激策を繰り返し、国の借金を膨張させた。おそらく中国は日本の対策を研究し、中央政府の負債が膨張することの危険性を認識した。

 危険性とは、中央政府に対する人々の信頼が毀損されることで、それは中央政府が発行する通貨に対する信頼が揺らぐことにつながる。中国の人々が金(gold)を好むことは以前から知られており、平時においても中国では人々が金(gold)などを買い溜めたり、外国に資金を移そうとするのは、中央政府が発行する通貨に対する完全な信頼が人々にはない現れと見ることができる。

 天安門事件やコロナ禍における過剰な行動制限など、いざとなれば多くの人々の犠牲をいとわず、共産党の独裁統治を守るという中国政府の真の姿を人々は見抜いているから、そんな政府が発行する通貨に対する信任は限定的なものになる。華僑の存在が示すように歴史的に中国の人々が他国に移住することを繰り返してきた。中国では政府が人々を管理の対象と見るが、人々は政府を見捨てることで対応したともいえる。

 中国政府の一連の景気刺激策は、金融機関の健全性を高め、救える不動産企業を救いつつ、消費を活性化させることを狙ったものだろう。だが、金額は足りず、遅すぎたとの批判もある。さらに中国政府は都市部で、老朽化した住宅100万戸を買い取り、住人には新たな住宅に住み替えてもらう政策を発表するなど、積み上がった空き住戸の処理に懸命だが、2億戸以上ともされる空き住戸の解消には程遠い。

 中国政府が発表する経済統計の信憑性は低いとされ、中国経済の実態を外部から正確に知ることは簡単ではない。改革開放から「中国の夢」を追う経済体制に転換しつつあるようだが、何がどのように変化させられるのか外部からは見えづらい。不動産バブル崩壊により金融システムが揺らぎ、景気低迷が長期化した日本を反面教師に中国は不動産バブル崩壊の後始末を手際よく行い、景気を上向かせることができるのか試されている。