望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

客人

 高倉健が主演し、大人気だった任侠映画で、欠かせない登場人物だったのが「客人」だ。主人公の高倉健をつけ狙う悪辣な組織に雇われた凄腕の一匹狼という設定。といっても単純に主人公を襲い続けるのではなく、要所要所で現れては主人公と対立しながら会話をし、ストーリーを進めて行くという重宝な狂言回しの存在。



 この客人には大別して2タイプある。悪辣な組織と一体となって主人公を襲い、返り討ちにあうタイプと、秘かに主人公を応援して助けるタイプ。後者は更に、1)悪辣な組織から裏切り者とされて殺されるタイプ、2)最後に主人公と共に悪辣な組織との闘いに立ち上がるタイプに分けられる。



 悪辣な組織から殺される客人の場合は、その死を見て主人公の怒りが一気に高まり、大団円の殴り込みへとつながったりする。こうした客人は、どこか善人風な設定で、あまり強そうに見えないことも多い。一方、主人公と共に最後に悪辣な組織と闘う客人は、強いけれど、世間を冷めた目で見ているニヒルな人物に描かれる。敵に回すと手強いけれど、味方になると頼もしいといったイメージだ。



 映画などでは主人公の強さを強調するために、敵対する相手側も強そうに描かなくてはならない。強い相手を倒してこそ、主人公の強さが際立つ。だから、強そうだった客人が、あっけなく悪辣な組織に殺されたりすると拍子抜けだ。組織の悪辣さと、主人公の善良さを浮かび上がらせる役割の客人が、実は弱かったと見えてきて、主人公の強さが浮かび上がらない。



 相次ぐ暴力団に対する法規制で現実の客人の渡世は厳しくなったかもしれない。そんな中、一人暮らしの堅気の友人の家を訪れる客人がいる。そいつは虎縞の猫。ふらっと庭に現れるようになり、友人が放るエサを奪うようにくわえて走り去っていたが、やがて友人の見ている前でエサを食べるようになり、いつしか家にも上がるようになった。



 そいつを友人は「客人」と呼んでいる。どこかに本宅がある気配だが、ふらっと姿を現し、時にはエサを催促したりするようになったという。最近は、エサを食べる客人に友人は「いいか。客人。一宿一飯の義理というものがあるんだぞ」と話しかける。猫はニャアと応えることが、あるそうだ。



 こちらの客人が強いかどうかは、友人は周辺の猫の勢力関係に疎いので詳らかではない。見た目には、大して強そうには見えないとのことだが、エサを食べた後、お気に入りのイスに上がって一眠りして行くそうだから、一人暮らしの友人のいい気散じの相手にはなっていそうだ。