望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

変身と変態

 「人間も昆虫のように変態するなら、子供と大人の区別がはっきりする」と知人が言う。夢で見たそうだ。大きくなった子供がある時に、仰向けに寝たきりで動かなくなり、やがて乳白色の柔らかいが厚い膜に覆われる。初めは膜を通して人体の形が判るが、やがて平板になって、すぐに再び人体の形が浮かび上がる。

 人間のサナギとも言うべき状態だが、昆虫と異なるのは、子供も大人も基本的に同じ体形であることだそうだ。サナギになって大人に変態する時に、人体組織全体が一度融けて再構築されるが、知人がサナギから出てきた大人を見る前に、夢は残念な結末を暗示した。数十センチある大型の寄生蜂に卵を産みつけられてしまったのだ。

 こうなると人間には為す術がない。サナギの中で人間は融けて変態している最中だから、膜を切り開いて寄生蜂の卵を取り出そうとすると、融けた人体も流れ出てしまう。だから人間は、寄生蜂に卵を産みつけられてしまったなら、悲しむしかない。

 数日経つと、人間のサナギの膜の中に十数センチの黒い塊が見え始め、やがて黒い塊がゆっくり動き始める。動き始めたということは、サナギの中で寄生蜂の幼虫が人体を食い始めたということで、人々はサナギの中で動く黒い塊を見て大いに嘆くのである。

 「気持ちの悪い妙な夢だったが、人間が変態するというのは面白い発想だ」と知人。体形がほぼ同じでもサナギになる期間を挟むことで、大人の誕生が明確になると言う。ただし、意識や記憶が継承されるのか、意識などは変態に伴って新生するのかなど人間の変態事情は不明なので、サナギを経て誕生した大人が、どのような人間になるのか未知数だな。

 変態ではなく変身する人間はTVドラマなどで珍しくない。悪人や怪獣と闘うために特別な能力を持つ超人に変身し、闘いが終わったならフツーの人間に戻る。変身は一時的なもので、いわば個人的な戦時体制みたいなものか。でも、変身後の格好は変態した後の昆虫の成虫を連想させたりするから、変態のイメージも少し含むかもしれない。

 変態は日常の中に位置づけられる成長過程であり、変態の以前に復帰することはできない。変身は日常における特別な状態なので、日常へ復帰することが定め。変態する人間を主人公にしたならば、毎回同じような展開で進めることはできなくなるから連続ドラマには不向きだろう。