望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

カモメとウミネコ

 旅行で海辺の街を訪れた時に、白と黒、灰色が混じった鳥を街中で見かけた子供がはしゃいで「カモメだ」などと言ったら、地元の人に「あれはウミネコだよ」と優しく訂正された。子供は「海の猫なの? 鳥じゃないの?」と聞くと地元の人は「鳥だよ。カモメの仲間なんだけど、カモメとは少し違うんだ」と説明してくれた。 


 カモメもウミネコも同じカモメ科に属し、見た目は非常に似ている。大きさもほぼ同じ(カモメがウミネコよりやや小さいが、個体差を考えると、大きさだけで見分けることは難しい)。見分けるポイントはクチバシで、ウミネコのクチバシの先端は黒い(赤も混じる)。飛んでいるなら、尾羽が白いのがカモメで、黒い帯があるのがウミネコ。ついでに、目つきはウミネコのほうが鋭い。


 両者とも海辺や水辺などに住むが、季節により顔ぶれは変わる。カモメは渡り鳥で、秋に日本に飛来して冬を過ごす。ウミネコ留鳥で日本で繁殖するので、夏に見かけるのはウミネコだということになる(オオセグロカモメも北海道などで繁殖する留鳥だが、ウミネコより一回り大きい)。


   「クチバシを見るんだよ」と言われた子供は、警戒しながらも立ったまま動かない鳥に、こわごわと近寄って、「ホントだ。クチの先が黒くなってて、少し赤い」と嬉しそうに言う。海辺の白い鳥=カモメだと思っていた子供の世界認識が広がったのは歓迎すべきか(大げさな表現だけど)。


 尾のほうを見ようと子供がさらに近づくとウミネコは飛び立った。「尾は見えたか」と聞くと、「よく分からなかった」との答え。「港に行けば、たくさんいる」と地元に人に聞き、港に行くと、そこここにウミネコがいる。子供が近づくとウミネコは逃げるが、何回か繰り返した後、さりげない近寄り方を子供は見つけた。だが、地上のウミネコは閉じた羽根の先が尾の上に重なるので、よく見えなかったという。


 港の突堤のほうでウミネコが飛び交っていたので見に行くと、1羽が低く滑空してきて、目で追いながら子供は「尾が黒い」。そのウミネコは何かをまき散らしながら飛んでいった。地上には点々と白い斑点状のもの。通りかかった人が「気をつけないと、ひっかけられるよ」と笑う。


 鳥類には膀胱も尿道もなく、尿は腸に排出され、他の排出物と一緒に排出する。飛ぶためには軽いほうがいいので、溜れば出すということらしい。確かに、飛びながら何かをまき散らしているウミネコは他にもいた。友達がカラスにフンを落とされたことがあると子供は言い、「鳥って飛びながらフンをするんだ」と、また、世界認識が広がったようだ。