望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

巨大なシマエナガ

 高さ30cmほどのシマエナガのぬいぐるみが書店で売られているのを見た。丸っこくて、可愛いい姿ではあったが、大きすぎる。実際のシマエナガは体長14cmほどの小鳥で尾が7~8cmほどと長く、重さは8gほどでスズメより小さい。実際にシマエナガを見た人は少ないだろうが、写真や動画などでは大人気だ。

 ふわふわの白い羽毛に覆われた丸い体に、つぶらな黒い両目と、ちょんとついたクチバシがつくる顔が愛らしいシマエナガは、ぬいぐるみなどには最適なモデルだ。以前からシマエナガの“等身大”のぬいぐるみやグッズ類は販売されていたが、高さ30cmほどに巨大化したシマエナガを見たのは初めてだった。

 巨大化したシマエナガには他の動物などのぬいぐるみと同様の可愛さはあるものの、可憐さは希薄だ。体の小ささが可愛さにつながる要素である小鳥や小動物は、巨大化させると可愛らしさが減り、イメージが違ってくるのだろう。クマなど可愛らしさと無縁な動物は、小さく造形することで可愛らしさが出てくる。

 巨大化したシマエナガのぬいぐるみは、ジブリのアニメ作品の登場人物に似合いそうでもある。だが、可愛さだけが目立つシマエナガは善良なキャラクターを脱することはできまいから、シマエナガが活躍するストーリーは限られる。可愛さとともに何かのストーリーを持っていそうな雰囲気をまとうキャラクターにシマエナガを設定するならアニメの主役も務まりそうだが、シマエナガが苦悩する姿を描いても観客の共感を得ることができるか定かではない。

 「やはり野に置け蓮華草」という言葉は、蓮華草は野に咲いているのが美しいから、摘み取ったりするなという主張だ。可愛くて人気が出たとはいえシマエナガは、巨大化させて観客の注目を一身に集める主役の座に置くよりも、冬の北海道の林などを飛び交っていて、滅多に見ることができない存在に置いておくほうがいい。

 シマエナガを主役とした多くの写真集が書店に並び、各種サイズのぬいぐるみなどシマエナガのグッズも増えた。こうなると、実際にシマエナガを見たいと思う人は多いだろうが、北海度に広く生息しているとされるものの実際に見ることは困難だ。個人で捕獲して飼うことは禁じられているので、北海道内の動物園などで飼育展示されるのを待つしかない。

 白くて、まんまるの小さな体に、つぶらな黒い目がチョンチョンとついている小鳥シマエナガは、そのままの姿で愛されるだけの存在でいい。巨大化させて他の生物のぬいぐるみと同じような愛らしさをまとったところで、失うものは多く、そのぬいぐるみがシマエナガでなければならない理由は希薄だ。