望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

軍事力の時代

 イスラエル軍がイエメンのフーシ派が支配するホデイダ港など3カ所の港と発電所空爆した。フーシ派によるイスラエルへの度重なる攻撃に対する反撃とされ、イスラエルの国防相は、フーシ派は「自分らの行動に対して重い代償を払い続ける」とし、「イエメンの運命はテヘランと同じだ。イスラエルに危害を加えようとする者は誰でも危害を受ける。イスラエルに対して手を上げる者は、その手を切り落とされる」と表明したそうだ。

 2015年の内戦勃発以来、3勢力を中心に諸勢力が争うイエメンで、シーア派系のフーシ派は親イラン武装組織とされ、イランの支援を受けているとされる。「イエメン全土で、イエメン政府と反政府勢力との衝突やイスラム過激派組織などによるテロ・誘拐事件が発生している。在イエメン大使館は治安悪化のため2015年2月をもって一時閉館中」(外務省)。

 ガザのハマスレバノンヒズボラというイランが支援するシーア派武装組織は、イスラエルによる軍事行動や幹部らの暗殺で弱体化し、残っているのはイエメンのフーシ派とイラクの親イラン民兵組織だ。中距離弾道ミサイルを保持するフーシ派はイスラエルに対するミサイル攻撃を繰り返していた。イスラエルは、ホデイダ港がイラン製の武器や軍事装備品などの輸送に使われ、フーシ派が拿捕した自動車輸送船のレーダーシステムが、紅海などでの活動に使用されている-などと今回の攻撃を正当化した。

 今回のイスラエル軍の攻撃でフーシ派がどのような打撃を受けたのかは詳らかではないが、中東各国に張り巡らしたイスラエルの情報網により狙いを定めた攻撃であったとすると、相応の効果はあったものと推察される。イスラエルはガザを制圧し、ヒズボラを弱体化させてレバノンも制圧、防空能力を低下させて空爆をいつでも可能にしてイランも軍事的に事実上、制圧した。

 エジプトとヨルダンに加え、UAEバーレーンスーダン、モロッコと国交正常化して関係改善したイスラエルは、軍事力で周辺諸国の「無力化」を進める。ヨーロッパなどから移住したユダヤ人がパレスチナの土地にイスラエルを建国したのは1948年5月。それから77年、周辺諸国との4度の戦争を戦い抜き、各地の武装勢力との戦闘も戦い抜いたイスラエルは、人工的に建国された国ではあるものの、確固とした存在となった。

 それを支えるのは圧倒的な軍事力と、中東を追い出されたなら再び、放浪の民となるので、戦い抜く強い決意を共有する人々の存在だ(さらに中東各国に張り巡らした情報網の効果も大きい)。イスラエルは国家の存続を圧倒的な軍事力で確保した。ウクライナ侵攻を続けて停戦に応じないロシアも、軍事力で周辺諸国への介入を繰り返し、既成秩序の変更を進めている。

 米国は空爆でイランに譲歩させ、中国は太平洋での海軍や空軍の行動能力を誇示するなど、軍事力で国際関係が変化する「軍事力の時代」になった様相だ。軍事力に対抗できるのは軍事力だけだから、世界は軍拡競争に向かうだろう。イスラエルやロシア、米国が示したのは、軍事力で既成秩序を変更し、世界を動かすことができるという現実だった。平和や共存などを求める言葉が無力であるのは「軍事力の時代」の特徴だ。