望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

買わずに、見て楽しむ

 例えば、陸上競技の短距離や水泳競技では、スタート地点に並んだ選手が合図とともに飛び出し、ゴールを目指して走り続けたり、泳ぎ続けたりする。各自のコースは明確に区切られ、抜かれまいとコースからはみ出て競合選手を牽制したりすることはできない。

 選手は互いに争っているのだが、勝敗は個別の所要時間で決まる。個別のタイムレースを複数の参加選手が同時に行っている形態だが、観客にとっては勝敗がわかりやすく、僅差のデッドヒートでは応援に夢中になるなど楽しむことができる競技形式だ。

 タイムレースではアルペンスキーなど選手が個別に走る競技もある。複数の選手が並ぶとコースコンデションを均等に保つことが難しく、複数選手ではコース取りによる有利不利が大きいことなど、競争条件を均一に保つことが困難だからだ。

 アルペンスキーで複数の選手が同時にスタートするとなれば、タイムは第二義的となり、順位を争うことが主眼となろう。ターンする時には有利なコースをめがけて選手が殺到するから接触は当たり前となり、押し合ったり、抜かせまいと牽制しあったりすることも当たり前になるかもしれない。

 100分の1秒を競うタイムレースも見ていて面白いが、複数の選手が同時にスタートし、ゴールラインに真っ先に到達することを目指しつつ、途中で互いに押し合ったり、抜かせまいと牽制しあったりするレースも面白そうだ。そんなレースが日本の競輪だ。

 競輪は公営ギャンブルなので、スポーツ競技と見られることは少ない。だが、スポーツ競技と見て楽しむことが禁じられているわけではなく、車券を買わずにレースを見るだけのファンもいる。先頭を争いつつ選手は、牽制したり、押したり、頭突きをしたりで「走る格闘技」だとファンは言う。

 ほぼ毎日、全国のどこかの競輪場でレースは開催され、その全てがネット中継されているのでファンは、自分の都合に合わせてレースを楽しむことができる。大きな大会でなければTV中継されない陸上や水泳に比べ、見る機会が多い競輪ファンは見巧者になり、勝敗とともに、レースでの選手の駆け引きを楽しむ。