望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

タレントで商売

 多くの人気タレントを抱えている芸能事務所が、テレビ局やそのバックにいる新聞社、出版社に大きな影響力を有しているという構図は最近始まったものではない。多くの人気タレントを好む人々が膨大に存在しているので、テレビ局や新聞社、出版社はタレントの人気にあやかって商売する。

 マスメディアに大きな影響力を持つ芸能事務所に対して批判や怨嗟の声がないわけではない。そうした声が封じ込められるか無視されるだけで表面化しにくいのは、マスメディアが取り上げないからだ。マスメディアが自社の利害に関わることでは、批判精神を簡単に放棄するのは珍しいことではない。

 そうした中で芸能事務所に対する厳しい批判を行ったのは竹中労氏だ。『タレント残酷物語』(エール出版社、1979年)には、例えば、次のような文章がある(適時省略あり)。

「芸能プロがいかに法網をくぐり、税金をごまかし、いわゆるユニット(下請け契約)、音楽著作出版、実演興行のプロモートのからくりで不当な利益を挙げているか。1968年に出版した『タレント帝国』以降、その欺罔を暴く作業を私は一貫して、芸能界からゲット(閉め出し)された。この社会における収奪のありようは、つまりタレントを管理して、ギャラを搾取することに尽きる」

「『タレント帝国』から十年、芸能プロダクションの人間管理、略奪のシステムは、本質的には少しも変わっていない。『街角で振り返られる』スター、タレントへの憧れ、芸能人志願の少年少女が巷にあふれ、昼も夜もそれを煽り立てるTV文化のある限り、“虚像を売る”稼業は繁栄を続けていくのである」

 竹中労氏はナベ・プロに焦点を当てて収奪システムを暴いた。例えば、人気タレントが「億の単位を稼ぎながら三十万円、五十万円そこそこの月給で酷使されている」「アグネス・チャンの場合、収入の80%を芸能プロが取る」「小柳ルミ子の場合、月保証三十万円の時代に年間売上げは五千万円」「キャンディーズは推定15億円を稼いだ。月保証は“引退宣言”の時点で五十万円といわれる」など。

 ジャニーズ事務所の創業者であるジャニー喜多川氏による所属タレントに対する性加害を最近になって日本のマスメディアも報じ始めたが、そうした犯罪行為を長年放置してきた芸能事務所に対する責任追及には及び腰だ。明確な犯罪行為に対しても相手が人気タレントを多く抱える芸能事務所となれば批判精神が萎えてしまうマスメディアの体質は、竹中労氏がナベ・プロの収奪システムを暴いた当時と変わらない。