望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

交換価値のデジタル情報化

 インターネットで個人ができることは、▽通信(文字や音声、画像、書類などを送受信)、▽検索(インターネット上に公開されている情報を調べる)、▽映画やドラマなど動画の視聴、▽通販でモノなどを買う、▽オンラインショップを開設してモノなどを販売、▽オークションなどでモノを売買、▽個人が作成した文章や写真などの公開、▽他人の文章や写真などを見る、▽商品や店舗の広告、▽納税など行政手続きーなどがある。

 デジタル情報に変換できるものは、次々とインターネット上に移った。書籍や雑誌や論文などの文字情報から始まり、写真や図表など静止画像が続き、やがて映画やテレビ番組などの動画の配信が可能になり、双方向性を活用して商取引、各種の行政手続きなどとともにSNSなど人々の交流の場となり、通信速度の高速化もあってインターネットは日常生活のインフラとして不可欠のものとなった。

 そして現在は紙幣や貨幣をインターネット上に移す過程が進行中だ。正確には紙幣や貨幣が有する交換価値をデジタル情報化して、インターネット上で決済できるようになった。パンデミックで、不特定多数が触った紙幣や貨幣の受け取りを忌避する傾向が表面化して日本でもインターネットによるキャッシュレス決済が一気に広まった。

 交換価値は抽象的な存在であり、見ることも触ることもできない。本当に存在しているのか不確かだが、人々は交換価値が存在すると疑わない。紙幣や貨幣の交換価値は、それらを受け取る側が交換価値の存在を疑わないことで成り立っている。1万円札は精巧な印刷がほどこされた紙切れにすぎないが、その交換価値を保証するのは国家であり、国家に対する人々の信頼が紙幣や貨幣の交換価値を支えている。

 仮想通貨もインターネット上に現れたが、民間が作成した仮想通貨の交換価値は不安定で、その交換価値は大きく揺れ動く。国家による裏付けがない交換価値は取引市場まかせだから、買いが増えれば上がり、売りが増えれば下がる。仮想通貨は実物経済における取引には限定的にしか使用されず、ほとんど投機の対象となっている景色だ。

 仮想とは実在しない何かを存在すると見なすことで、紙幣や貨幣の交換価値そのものも仮想といえば仮想である。国家の裏付けがある交換価値のデジタル情報化が可能なのは、デジタル情報化しても交換価値が実在すると人々が信じるからだ。さらにインターネット上には仮想空間も誕生して新たなビジネスの場になると期待する向きもあるが、民間が作成した空間なので、そこにどれだけの価値があるのか人々はまだ慎重だ。

 自国の紙幣や貨幣の交換価値が不安定になって減少すると、人々は他国の紙幣の交換価値に目を向け、例えば、自国通貨よりも米ドルを求めるようになったりする。現在の世界では、実物経済の規模をはるかに上回るマネー(交換価値)が動き回っているとされ、そうしたマネーが更なるマネーを得るためには、実物経済からの収益だけでは限りがあるので投機に向かい、バブルを世界各地で生じさせたりする。交換価値が過剰に存在する世界に我々は生きている。