望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

ブッとブッシュの神隠し

 9月11日、NYなどでの同時多発テロを知ったブッシュ大統領は、訪問先から急いでワシントンに戻ろうと、大統領専用機「エアフォース1」に乗り込んだ。飛行機は飛び立ったが、ワシントンに戻る途中、飛行経験の長いパイロットでも初めて見るという、妙に人を引き付ける見慣れない雲を見つけた。「ワシントンにまっすぐ戻るのは危険そうだから、少し時間潰しに雲に近付いてみようか」とパイロットは機首を向けた。

 雲の中に入ると、気流が乱れて機体は大きく揺れ、ブッシュはしきりに帰りたがったが、パイロットはもう誰の言うことにも聞く耳を持たなかった。そして、雲の中に滑走路のようなものがあることに気がついた。

 飛行機はその滑走路に着陸した。停まってから周囲を見回すと、草原が広がっているようでもあり、細い道が続いていた。飛行機を降りて歩き出したパイロットの後を追ってブッシュらも道を行くと、レストラン街があって、人影は見えないものの、美味しそうな匂いが漂い、パイロットを始めブッシュ以外は全員、それぞれ気に入ったレストランに入り、テーブルに並べられていた料理を食べ始め、1人だけ食べなかったブッシュが「勝手に食ってはいけない」と止めた時には、彼らは皆、爆弾に変わっていた。

 途方に暮れて歩き回るブッシュの前に1人の女が現れ、ブッシュをじっと見つめて近寄って来て、「彼らを元通りにしたいのなら、彼らの数の1万倍、あなたの国の爆弾を使いなさい」とささやいた。「でも、どうやって使えばいいんだ? ワシントンに戻らなくては命令を下せない」。青ざめたブッシュに女は「うじうじしていると、おまえの名を取り上げて、ブッとでもしてしまうよ」と言い放ち、「まっすぐ、後ろを振り向かず戻りなさい。飛行機は飛べるようになっているから」と言い、「いいかい、何と呼び掛けられようが、振り向いてはいけないよ」と付け加えると女は消えた。

 言われた通りブッシュは戻ったが、途中、「更に血を流してはいけないよ、ブッシュ」「報復では何の解決にもならないよ、ブッシュ」などの声が間断なく聞こえたが、ブッシュは振り向かなかった。飛行機に戻るとパイロット始め皆が揃って待っていた。「なんだ、君たち無事だったのか」とブッシュが声を掛けると、女の声がどこからともなく聞こえた。「この連中は爆弾が人間の形をしてるのさ。おまえが約束を守らないと、そのうち爆発するよ」。

 ワシントンに戻ったブッシュは、すぐに攻撃命令を出し、具体的計画を練らせた。ただ、今でも後ろから声が聞こえて来るが、まだ振り返ってはいけないと信じ込んでいる。