望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

オー! ゴールド

 20xx年、米の軍事法廷終身刑を言い渡され服役していたオマール師は、獄中で知り合ったトムの誘いで脱獄に成功した。

 誘ったトムというのは元米軍特種工作員で、カンダハル陥落直後、アフガニスタン某地の洞窟でアルカイダの軍資金らしき金塊の山を見つけ、警備していた者らを皆殺しし、洞窟の入り口も爆破して塞ぎ、何もなかったとの報告書を軍に提出して、戦火が収まってから民間人として戻って来て取り出すつもりだった。しかし、仲間にしようと親友に打ち明けたのだが、金に困っていたそいつが抜け駆けしようとしたため争いになり、殺してしまい、20年の刑を宣告されていた。

 タリバーン崩壊後のアフガニスタンは中近東きっての親米国となり、アメリカ主導の開発計画がめじろ押しで、金塊を隠した洞窟付近にも天然ガスのパイプラインが通ることに決まり、工事が始まったことをトムは知った。洞窟が暴かれて金塊が見つかることを恐れたトムは、現地では今でも顔が利くだろうとオマール師を誘った。

 脱獄して軍用機に潜り込み、アフガニスタンに着いた2人は早速、オマール師の知り合いを探したが、やっと連絡の取れた2人のうち1人は米系ファストフードチェーンの役員になっており、もう1人は英国系広告会社の顧問で、2人ともオマール師に「時代は変わった。思想や宗教より生活が大事だ」とオマール師に自首を勧める。

 こうなりゃ自力でと決心したトムは、父親が米軍兵士らしいという少年が地理に詳しいというので雇い、アルバーンレンタカーで車を借り、オマール師と洞窟に向かった。道路は見違えるように整備され、治安面でも昼間は安全になったと聞き、トムは「アメリカの都会なみだな」。

 金塊を隠した洞窟付近は工事が始まっており、立ち入り禁止で鉄条網で区切られていたが、見回りの人間は見当たらず、トム達は鉄条網を破って入った。しかし、金塊を隠した洞窟の前には作業員宿舎が2棟あり、作業員が出入りしている。

 呆然としているトムを見て少年が「あの裏の洞窟なら、別の洞窟から入れる」と言い、こっちだと案内したのは山の反対側だった。アルカイダの武器庫だったそこは破壊の跡が残り、瓦礫が洞窟の半分以上を塞いでいたが、少年に導かれ、瓦礫の間に潜り込み、奥へ進み、時には腹這いになってやっと通ることのできる隙間を通り、やっと金塊のある洞窟に出た。「ここがそうだよ」との少年の言葉にトムは見回した。確かに壁や天井の岩の凹凸に見覚えがある。が、金塊は影も形もない。

 「ない」とへたり込むトムに少年は「ないって、金のことかい?」、「そ、そうだ。知ってるのか。どこにやった?」、「金がいつまでも残ってるはずがない」、「俺の金をどうした?」、「お前の金じゃない。アフガニスタンの金だ」とオマール師。

 「俺が見つけたんだ」というトムに少年が「手に入れた者のものさ。ここに置いておいたから、暫定政府が仲間割れしてごたごたしてる間に、アルカイダタリバーンの残党が持ち出して事業資金にしたって噂だ。乗って来たアルバーンレンタカーやアルバーンホテルなんかがその金で作った会社だっていうよ」。