こんなコラムを2001年に書いていました。
シャロンとアラファトは米NYに住んでいるゲイのカップルだ。パレスチナでの戦火を逃れて、それぞれアメリカにやって来てNYで知り合った。シャロンはユダヤ人、アラファトはパレスチナ人だが、2人とも宗教には特別な感情はなく、NYに来てから宗教心は薄れる一方だった。
2001年12月、NYでのXマスムードは盛り上がったが、同時多発テロの影響で、航空会社で客室乗務員をしていたアラファトは人員整理の対象となり10月に解雇され、会計事務所に勤めていたシャロンは、そこの得意先の大半が世界貿易センタービル内にある企業だったため11月に事務所が倒産、2人とも失業してしまった。
Xマスの話題に触れるのを避けていた2人だが、自由競争の国アメリカでは、失業した中年過ぎのユダヤ人やパレスチナ人に残された自由は少ないことや、困難な時だからこそ互いに支えあう必要があることを感じていた。そこでXマスにはプレゼントを贈って相手への感謝を示そうと考えた。だが、失業した相手に負担をかけないようプレゼントのことは互いに言わなかった。
シャロンはアラファトのためにパレスチナの自治権を買った。ただシャロンの所持金では足りなかったため、大事にしていたおじいさんのノーベル平和賞のメダルを売った。
アラファトはシャロンのために、ノーベル平和賞のメダルを壁に飾るための額を買った。しかし金が足りなかったため、パレスチナの自治権を獲得した時に使う国づくりの計画書を売ってしまった。
Xマスの夜。シャロンが「失業して厳しい状況になってしまったけれど、僕ら2人協力して生きて行こうよ」と隠していたプレゼントを渡した。驚きつつも喜んで受け取ったアラファトは包みを開けて当惑した表情になり、「ああ、パレスチナの自治権だけあっても、もう国づくりはできない」と言い、それでもシャロンの好意に感謝しつつシャロンに「僕からもプレゼントがある」と渡した。
包みを開けて、それまでの笑顔から寂しそうな表情になったシャロンは「せっかくの額だけど、この中に飾る、おじいさんのノーベル平和賞のメダルはもう僕の手にはない」と言って肩を落とした。2人は互いの思いやりの気持ちに涙しながら、「あんなに大切なものを手放して、僕にプレゼントをくれたんだね」と言い合いながら手をとってダンスをしました、とさ。