望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

戦争と誤爆

 報道により事実だと推定できるのは、▽ポーランド政府は11月15日、東部プシェボドフにロシア製のミサイルが着弾し、2人が死亡したと発表した、▽ポーランド東部プシェボドフはウクライナ国境から約7kmに位置する、▽同日はウクライナ全土でロシア軍による主にエネルギー施設を狙った約90発のミサイル攻撃があり、プシェボドフから南に約70kmのリビウにも攻撃があったーなどだ。

 ポーランドNATO加盟国であり、北大西洋条約は第5条で加盟国に対する攻撃をNATO全体への攻撃とみなし、攻撃された国の防衛義務を負う集団的自衛権を定めているので、ロシアからの攻撃であれば集団的自衛権が発動される可能性が現実味を帯び、ロシアとNATOの開戦も想定される事態だった。ただ集団的自衛権の発動には加盟30カ国の承認が必要で、過去に発動されたのは同時テロを受けた米国のアフガニスタン戦争だけだ。

 ロシア国防省はすぐに関与を否定して「意図的な挑発行為である」とし、大統領府の報道官は「われわれは、狂ったようなヒステリックな反応を目の当たりにした。様々な国の高官が何が起きたのかなど考えないまま、声明を出した」と批判したという。

 米バイデン大統領は16日、G7とNATOの緊急首脳会合後、「軌道から考えるとロシアから発射された可能性は低い」と述べた。米国家安全保障会議の報道官は声明で、ウクライナの迎撃ミサイルが着弾した可能性が高いとするポーランドの分析を追認したが、「悲劇的な事件の最終的な責任がロシアにあるのは明らかだ」とロシアを非難した。NATOは共同声明で、ポーランドに落下したミサイルについてロシアが発射したとは断定せず、「ポーランドが進める調査への全面的な支持と支援を提供する」とした。

 ポーランドの大統領は16日、「ミサイルは旧ソ連製のS300で、ロシア側から発射された証拠はない。ウクライナの防空システムから発射された可能性が高い」と述べ、NATO事務総長も、ウクライナが発射した地対空ミサイルだった可能性を指摘した。一方、ウクライナのゼレンスキー大統領は16日、「我々のロケットではなかったことを疑っていない」と述べ、その後も、着弾したのはロシアのミサイルだとの主張を続けている。

 戦場をウクライナに限定することをロシアもNATO(含米国)も暗黙に了解している気配で、ウクライナ軍のロシア領土への攻撃もロシア軍のNATO加盟国の領土への攻撃も抑制されてきた。だが、ポーランドへのミサイル落下は、いつでもロシアがNATOを戦争に引きずりこむことができると示した(そうした決断はロシアにも難しいことだろうが、NATOに対する威嚇の材料にはなる)。

 戦争に誤爆はつきものだ。仮にポーランドに落下したミサイルがロシア軍が発射したものだったとすれば、全面戦争はともかくNATOウクライナ支援を一層強化しただろう。それでロシア軍が劣勢になったとしても、いまさらロシア軍が撤兵するとは考えにくく、戦線の膠着状態が長引くかもしれない。それは、兵器や人命などのさらなる壮大な消耗線となる。