望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

ソフトな警備

 北京の韓国大使館領事部に駆け込んだ北朝鮮人1人を中国人警備員が敷地外に連れ出し、中国警察が連行した出来事が2002年にあった。韓国は、ウイーン条約違反だから身柄を引き渡せと抗議したという。

 その映像がマスコミに流れて、人権に配慮しない強権的な国だと中国のイメージはまたダウンした。共産党であれ王であれ個人であれ独裁政治はクソだ。だから、中国のイメージが下がるのは自業自得なのだが、視点を変えてみよう。中国がソフトな警備に切り替えたら、どうなるか。警備の人数を最小限にし、大使館などの敷地に入った人間にはノータッチということになったら、どうなるか。

 中国内に数十万人がいるとも言われる北朝鮮からの離脱者。彼らは韓国への亡命を望んでいるだろうから、韓国をはじめ各国大使館への駆け込みがしやすくなったとの情報に一斉に動き出すだろう。

 警備をソフトにすることによって中国は亡命問題の当事者ではなくなる。その点では抑圧的とのイメージは多少薄らぐかもしれないが、北朝鮮からの密入国者が増えることは間違いなく、北朝鮮の体制への国際的批判が一層高まり不安定化する可能性がある。韓国にとっては、数十万或いはそれ以上の亡命者を受け入れなければならなくなる。一方、北朝鮮の体制が不安定化することは望むところではあるまい。

 日本など第3国にとっても、亡命を求めて大使館などに駆け込んでくる人数が急増するのは間違いなく、韓国の受け入れ態勢によっては、自国で保護せざるを得なくなる。また、北朝鮮の不安定化という問題も抱える。

 東ドイツが崩壊したのは、ハンガリーが西ドイツへの国境を開いたことで、東ドイツから亡命希望者がハンガリー経由で西ドイツに殺到したことが始まりだった。北朝鮮からの人々の亡命(移動)は、北朝鮮の現体制の終わりの始まりだろうが、相変わらず彼の国からの実態を伝える情報は少ない。ただ、大量の亡命希望者の存在と中国での亡命騒ぎに何も言えないことは、北朝鮮が当事者能力を失っていることを示している。おそらく韓国、中国、日本とも、亡命者のことよりも北朝鮮の崩壊を避けることを念頭に置きながら、人道だの主権だのと言い合っている。