望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

被害者は同情される

 オレオレ詐欺振り込め詐欺、預貯金詐欺、架空料金請求詐欺、還付金詐欺融資保証金詐欺など)が問題化して久しいが、一向に減る傾向は見られず、現在も活発に行われているようだ。詐欺の手法が複雑化して、電話口でドラマ仕立ての寸劇が演じられることもあるとされ、うっかり騙されて大金を振り込んだり、訪ねてきた関係者と称する人物に金を渡してしまったりする事例がニュースとして頻繁に報じられる。

 ニュースとして報じられるのは数百万〜数千万円を騙し取られた事例が大半だが、中には複数回にわたって要求されて1億円以上も騙し取られた事例もある。大金を振り込みかけた高齢者に気がついて、注意を促したり親族に電話して確認させたりして、詐欺被害を未然に防いだ人が警察から表彰されるという地域ニュースも珍しくない。

 大金を騙し取られた人はニュースでは被害者として扱われる。オレオレ詐欺に騙された事例が頻繁に報じられ、行政などからしきりに警戒が呼び掛けられるのに、騙される人は相次いで現れるのが現実だ。おそらく手口は常に「進化」していて、ニュースでは報じられない新たな状況設定を被害者に信じ込ませ、大金を出すように仕向けているのかもしれない。

 大金を騙し取られた人の場合は事件として報じられる一方、詐欺の電話に騙されない人もいるだろうが、その実態は不明だ。おそらく騙す側は大量の電話をかけていて、ごく少数が騙されるのだろうと推察されるが、全国で多くの詐欺グループがどれだけの電話をかけているのかも不明で、オレオレ詐欺の全容は闇の中だ。

 オレオレ詐欺が問題化して20年以上になるのだから、全国の警察には事件化したオレオレ詐欺のデータが膨大に蓄積されているだろう。警視庁がサイトで手口を紹介して警戒を呼びかけるなど手口については分析が行われているのだろうが、膨大なデータを分析してオレオレ詐欺の全容を把握することはできていないように見える。例えば、被害者(騙された人)に共通する要素などが膨大なデータから抽出できれば、被害者になりやすい人に絞って警戒を呼びかけることができよう。

 膨大なデータを集めて、分類して分析するのは社会科学の基本だ。警察は個別事件への対応で手一杯なのだろうから、犯罪学などの研究者が警察が蓄積した膨大なデータを分類して分析することで、例えば、騙す側と騙される側などオレオレ詐欺の全容が解明されるかもしれない(問題は、日本の官僚組織が保有するデータの公開に積極的でなく、その保存に無頓着なことだ)。

 オレオレ詐欺の被害者は同情の対象となり、自己責任だと冷ややかに見られることは少ない。せいぜい数万円程度なら騙された側(被害者)が「マヌケなカモだ」と見られることもあるだろうが、数百万〜数千万円を騙し取られた人に対して同情心が先立ち、当人の責任を問うことは控えられる。オレオレ詐欺を仕掛ける側の卑劣さへの怒りが社会的に共有されているからだろう。