望潮亭通信

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ワクチン4回でも感染

 ワクチンの効果は見えにくい。感染しないでいるのはワクチンを打った効果なのか、ワクチンを打たなくても感染しなかったのか個別には判断ができない。治験データではワクチンの感染予防の有効性が示されたとしても、全てのワクチン接種者に有効であることはなく、個人は「ワクチンが効くはずだ」と信じるしかない。

 ワクチンを打ったのに感染した事例があると「ワクチンを打っても感染したじゃないか」とワクチンに対する疑念が生じる。ワクチン接種で免疫を獲得するから感染しないとの図式が崩れたと見え、不信感が高まる。ワクチンを打っても感染するなら、新型コロナウイルスワクチンのように何度も打つことの意味はないと感じる人が出てくる。

 変異株の出現がワクチンの有効性を阻害しているとしたなら、変異を短期間で繰り返すウイルスに対してワクチンの有効性は、そもそも乏しいと判断せざるを得まい。新型コロナウイルスワクチンの効果は時間とともに低下すると報じられ、それが何回ものワクチン接種を正当化する。だが、3回も4回もワクチン接種した人が感染している事例が珍しくないなら、ワクチンに効果が本当にあるのかとの疑念を持つ人が増えるかもしれない。

 4回のワクチン接種を受けた岸田首相が新型コロナウイルスに感染した。軽症であることから「医師にも相談の上、首相公邸において自宅療養を行いながら、リモートで仕事を続け」た(首相官邸サイト)。だが、感染対策が万全であるはずの環境にいる人が感染を防ぐことができず、ワクチン接種による感染予防効果に対する疑問の声が上がった。

 一方、発症を予防する効果だけをワクチンに求めるから、ワクチン接種者の感染を問題視するとの反論がある。データでは「ワクチンを受けた人が受けていない人よりも、新型コロナウイルス感染症を発症した人が少ない」が「追加接種を受けても、発症等を完全に予防できる訳ではありません」、3回目接種については「国内外の報告により発症予防効果等が報告され」「オミクロン株に対しても、3回目接種に係る様々な研究において発症予防等の効果が一時的に回復する」(厚労省サイト)。

 さらに、海外での研究によるとオミクロン株流行期において「4回目接種による感染予防効果は短期間しか持続しなかった一方で、重症化予防効果は4回目接種後6週間経過しても低下せず維持されていた。」(同)。つまり岸田首相が感染したのは想定内のことであり、軽症であったのはワクチンの効果だった可能性があるということらしい。

 重症化を予防するというワクチンの効果も見えにくい。感染しても軽症で済んだのはワクチンの効果か、ワクチンを打たなかったとしても軽症で済んだのかは判断ができない。治験データで有効性が示されたとしても、個別の事例ではワクチンの重症化予防の効果はぼやける。だが、新型コロナウイルスに対してワクチン以外に現実的な対応策はないのが現在。ワクチンの効果を「信じる人は救われる」のならいいのだが。