望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

昔、巨人ファンありき

 昔、男ありき。巨人ファンを自認したりしが、傍からは「熱狂的」なる冠をつけられたり。巨人が勝てば、翌日はうきうきと過ごし、巨人が負ければ、翌日は暗い顔して、誰と話すのも心憎しとの様子なりたり。

 その男に心配事あり。巨人が勝てば、それで万事OKとの心積もりで年月を送りしが、ふと心に影がよぎりたり。FA制度なるもの現れ、各球団の有名選手が巨人に集まりたり。これなら毎年、優勝は間違いなしと思いしに、そはならじ。優勝を逃ししことが第一の心晴れざる原因なりしが、もう一つ、不安がきざしたり。そは、巨人に集まりたる各球団の有名選手が、巨人を「あがり」の場と心得し様子なりしことなり。

 男は思いたり。日本人の有名選手は巨人で引退せんと巨人に集まりたるや。巨人ならば、年俸も高かりしまま引退までベンチを温め、その間にマスコミ関係者と知り合いになる機会も他球団より多きこと疑いなし。引退せし後は、解説者になるもよし、バラエティに出るもよし、食べ歩き番組に出るもよし。外国人の有名選手なれば、高額の年俸を払い得る球団は限られしに、巨人なれば払うべしとの計算あり。引退までに日本で可能な限り多くの金を得るには巨人に移るしかなしと考えしか。

 その男、巨人の試合を見ていても心弾まぬこと多くなりし。巨人に移った有名選手は、たまに試合に出て活躍せし時にはマスコミに大きく扱われしも、あそこが痛し、ここが痛しとて、すぐに休みたり。その間に他の選手が活躍して出場機会が限られしも、出場機会を求めて他球団に移らんともせざりし。男は思いたり。金につられて巨人に移りし有名選手は、野球に対する熱意が薄れしやと。そがプレーにも現れしかと。引退まで巨人でねばる積もりなりやと。

 昔、男ありき。巨人ファンを自認したりしが、サッカーを見ることも多くなりたりとや。