望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

通貨と信用


 こんなコラムを2005年に書いていました。

蘇我「ニセ1万円札が出まわったかと思えば、今度はニセ500円硬貨か。次は5000円札か? 100円硬貨か?」

物部「先日、俺もニセ札をつかまされたかと思ったが、よく見ると2000円札だった。2000円札なら、偽札だったとしても誰も気付かないだろうな」

蘇我「誰かがパッパッと紙切れに印刷して、それが1万円札として通用するなら旨い話だが、そうは問屋が卸さないさ。日銀が印刷した紙切れだけを1万円札として通用させることは国家主権に関わることだから、目の色を変えて取り締まるだろうな」

物部「いまのところ、ニセ通貨をつかまされる不安はあっても、日本の通貨への不安は出ていないようだから、一過性の事件で済まされている。大量の借金をかかえる日本の財政破綻が、増税やらインフレやらで皆の目にはっきり見えてくれば、日本の通貨の交換価値が国際的に低下していく。そんな時にニセ通貨が出回れば、それが切っ掛けとなって円への信用が国内でも揺らぎ、政情不安の国々で見られるように日本の人々も日常的にドルを使うようになるかもしれない」

蘇我「ニセドルも大量に出回っているから、ドルでも円でも自己責任で使用するしかない状況になっていくのかもしれないな」

物部「なるほど。そうした事態に備えて富裕層は預金をドル建てに移しているのかも」

蘇我「ドルも膨大な双子の赤字で信用が揺らぐが、世界中に流通していて、身近な価値交換の媒介物としてドルに代わるものはないからな」

物部「戦争中には、交戦相手国の経済的混乱を狙ってニセ通貨を国家が作って、ばらまくということがあるそうだ。冷戦期にも同様のことが行われていたという話もあるが、さて今回のニセ通貨、近くのどこかの国が仕掛けたという想像もしたくなるが」

蘇我「以前はそんなこともあったと言われるが、今回は違うだろう。ニセ1万円札は本物をスキャナーでPCに取り込み印刷したものと報じられているし、ニセ500円硬貨はおそらく本物から型取りして鋳造したものだろう。どちらも大掛かりな設備や人員は必要としない」

物部「通貨当局は新技術の導入で偽造されにくくしているが、通貨がある限り偽造しようとする連中は現れる」

蘇我「なにも偽造は最新の通貨だけが対象でなければならないわけではない。現在の偽造技術を持ってすれば、過去の紙幣は何でも偽造できるだろうし、有価証券の類いも対象となる」

物部「エセと本物の見分けは自己責任で行うしかないということだな」