望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

ご飯を鍋で

 日本人の主食はコメ(米)だ。家庭では炊飯器を使って炊くのが一般的だろうが、パンや麺類などで食事を済ますことや外食などが増え、コメの消費量は減っている。1人当たりの消費量は1962年(昭37)の118.3kgをピークに減少傾向で、2000年に64.6kg、2020年には50.7kgとなった(農水省サイトから)。

 一方で炊飯器には7万〜8万円から10万円台などの高級モデルが登場し、話題となった。店頭には数千円のものから様々な価格帯の炊飯器が並べられ、廉価のものでもそれなりに美味しく炊けるというが、より美味しいコメを食べることができるとの期待が高級モデルを定着させた(食べ比べると、高級モデルで炊いたコメは確かに美味しいという)。

 美味しくコメを炊くことができる日本製の炊飯器の人気は国境を超えて米食文化圏に広がった。来日する中国観光客が増え始めた頃、日本で炊飯器を各自が買って大量にカートに積み上げて持ち帰る様子が報じられた。炊いたコメの美味しさが違うと気づいた人は高くても、いい炊飯器を買う(美味しく炊くにはコメの種類や状態に合わせた水分の微調整が必要だが、それらを高級モデルは行ってくれるそうだ)。

 炊飯器が普及する前、家庭では羽釜を使っていた(今でも羽釜で炊いている飲食店があり、それをウリにしたりしている)。歴史的に、日本では縄文時代後・晩期には水田稲作が行われていた可能性が高く、弥生時代以降、水田稲作が本格的に始まったという。当時は土器で茹でて汁がゆや固がゆにして食べ、奈良時代には固がゆの水分が更に少なくなったものを食べ、平安時代に土器製の羽釜が現れ、鎌倉時代に鉄製の羽釜が現れ、江戸時代中頃には鉄釜が普及した(米穀安定供給確保支援機構サイトから)。

 まだ20代で独身の友人は、昼食は会社近くで外食を楽しみ、夕食は飲み会がなければ町中華などで済ますことが多く、たまに早く帰宅してもコンビニで買った弁当などで済ましていた。ところが、パンデミックで会社の売り上げが半減して給料は減らされ、自由に使える金額が減って友人は外食を控えるようになった。コンビニで弁当やパン、カップ麺などを買う毎日だったが、食料品の値上がりが続き、友人は考えた。

 「このままでは金が足りなくなる。毎食の食べる量を減らすと腹が減って仕方がないし、毎日2食にするのもきつい。きちんと毎食を食べつつ、出費を抑えるためには、自分で調理するしかないか」とコメを買ってきて自炊することにした。だが、蓄えがあまりないので炊飯器を買うことを躊躇し、昔の人は鍋で炊いていたのだから、インスタント麺をつくる片手鍋でも炊けるはずだと調べると、ネットに鍋でのコメの炊き方が載っていた。

 「うまく鍋で炊くことができるようになったか」と聞くと友人は「試行錯誤して何とかコツはつかめました。上手に炊けるとコメって本当に美味しいと感じます」と言い、「コメが美味しければ、おかずは少しあればいいんですよ。いい漬物だけでも満足できます」。自分で弁当を作ることも考えているという友人は炊飯器に頼らず自分流の美味しいコメを食べて満足している。