望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

堕ちた偶像

 こんなコラムを2006年に書いていました。

 ライブドア堀江社長を、というより,彼の持つ金を世間は仰ぎ見てきた。目端のきく男が起業してチャンスをつかみ、株式上場で大儲けし,M&Aなどでグループ会社を増やし,一大帝国を築き上げたというイメージ。人の心も金で買えると言い切られてみると、生活のために頭を下げた覚えのある人々は、世の中なんて所詮そんなものと反論する気もなくし,若い人々は、世の中を単純に理解する原理を示されたように、なびいた。


 さあ成果主義だ,成果を上げた奴には月給1000万も2000万も出すと言われ,実際に大金を手にした人が現れてみると,その職場はサービス残業がはびこり,その会社には福利厚生もろくにないにもかかわらず,人々は熱心に働きだし,やがて見切りを付けた人々はどんどん辞めていく。先進的企業のイメージを漂わせながら,組織の実態は古くさい。


 堀江社長バファローズ買収騒動などで、旧態依然のままで何ら改革をしようとしない「老害」経済人に楯突く反逆の若者のイメージを打ち出し,世間の支持を集めた。しかし,堀江氏には,金はあってもプロ野球改革のビジョンなどなかった。次には自民党を利用し、立候補した。世のため人のために献身する気になった、わけじゃあるまい。


 マスコミでは日々、小泉や安倍らの政治家を始め自民党や企業のイメージ操作が巧妙に行われている。のんびりしている人々は簡単にイメージを信じ込まされる。例えば,都心の六本木ヒルズにIT企業やネット企業が集まり,堀江社長ら大金持ちが住むところから、高級で最先端のビルとのイメージがあるが,ネットは世界とつながっているのだから、IT企業やネット企業が過密な都心のビルに集中する必要はない。むしろ、郊外の緑豊かな環境のいいところに社屋を構えるべきだろう。いつか来ると言われている東京での大地震の時、六本木ヒルズの建物は大丈夫だろうが、そこのIT企業やネット企業で働く人々はどうか。電車が動かないから人手が足らずサイトを更新できませんとでも言うのかしら。


 金持ちに成り上がり,既成権力に歯向かうようなイメージの堀江社長を世間は小気味よくはやしていたが,一転して今度は「もう終わりだね」と、その凋落を小気味よく感じているらしい。所詮は雲の上の話,起業したって簡単にはうまくいかず、「人の心を買える」ほどの大金を手にすることなんてできるはずもないと、人々は「現実」に引き戻された。金を掴んだ堀江社長の言動に人々は喝采を送ったが,金を失いつつある堀江社長を見て人々は、自分らが見下されていたことへの反感を一気に吐き出しているようにも見える。