望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

怪しい光

 こんなコラムを2006年に書いていました。

 5月27日の夜11時前後だったろうか、夜行列車は岡山を過ぎて東京へ向っていた。車窓からふと空を見上げると、雲が低く一面を覆っていたが、雲の上に光っている箇所があった。月かと思っていると、その光が列車の進行方向に加速し、やがて並走した。しばらくすると光は列車から離れるように真横に動き、しばらくして光が見えなくなり、夜空を探すと列車の後方に移動していた。また、光は列車の進行方向にスピードを上げ、同様の動きを繰り返した。「変な光だな」と思いつつ、車窓から眼を離し、しばらくしてから空を見ると光は消えていた。

 光が消えてから、何だったのだろうかと疑問が湧いた。光が雲の上にあったことは確かなので、地上からのサーチライト様の光が雲に映っていたのではないことは断言できる。車内の光が窓ガラスに反射していたのでもない。発光源の可能性としては飛行機かヘリが考えられるが、列車の速度(せいぜい120〜130キロ)に合わせて飛行し、横移動や後退(減速)をスムーズに行うことのできるのは特殊な機種だろう。そんな機種が存在するのかは知らないが。

 英国防省が4年をかけて未確認飛行物体について調査し、「空飛ぶ円盤が実在する根拠はない。目撃されたのは大気中で帯電したガスのプラズマ現象だ」と結論づけたそうだ。未確認飛行物体を「空中に現れる現象」と解釈し、ガスのプラズマや気象現象、電磁的影響によるもので、「空中に現れる現象が敵対的だったり、何者かにコントロールされていると思われる根拠はない。大気中の自然現象であるということを裏付ける根拠はある」としている。

 確かに27日は西日本から天候が崩れていて不安定な状態だった。そんな大気中で、どういう作用により発光現象が起こったのか、その発光現象がなぜ、列車の進行に合わせるように自在に動くことができたのか、気象学に疎いので仔細は解らないが、釈然としない思いが残る。発光現象が生じるかもしれないとは理解できるが、それが列車に合わせて移動したのは何故か。

 1頭の蝶の羽ばたきが大気に与える影響は微々たるものだが、その1頭の蝶の羽ばたきが巡り巡って、遠く離れたところで大気の大きなうねりになるという小説があったように記憶するが、空気を押しのけて進む夜行列車の動きが大気に影響を与え、空中の発光現象を引き連れて動いたと考えられなくもない。ただ、その場合でも疑問は残る。同様の自然状況の時に夜行列車の上空に発光現象がしばしば現れるというならともかく、そうした話は聞かない。また、発光現象の横移動や後退と列車の進行との関係が不明だ。

 英国防省は未確認飛行物体が「英国民に危害を加える可能性があるか調査検討する」と調査を始めたそうだ。興味本位のマスコミ報道が多かったが、英国防省の防衛を実証的に検証するという姿勢は当然だろう。“敵”の実態をできるだけ正確に知ることが戦略立案の基礎となるからだ。ただ、未確認飛行物体のすべてが英国防省の発表で解明されたわけではない。個人的には未確認飛行物体と言われているものには興味はなかったが、夜行列車からみた光の怪しさに、一概にすべてを同列に論じることはできないのではないかという気もしている。