望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

見えなくなる


 米国の大リーグの試合でどこが勝とうと負けようと、おそらく日本人にはあまり関心がない。ただ、日本人選手の「活躍」だけに関心があるから、細かく報じられる。檜舞台での同胞の活躍に日本人としての誇りを満足させる……これって、アメリカ・コンプレックスの現れなのかもしれない。いや、欧州リーグでの日本人サッカー選手の活躍なども細かく伝えられるから、「世界で活躍する日本人」という分野のニュースか。大リーグをじっくり楽しもうという視聴者の数は少なく、そもそも大リーグへの興味もあまりないのかもしれない。


 同様のことは国内でも起きている。試合が予定されているのにTV番組欄にプロ野球中継が記されていない日が増えている。以前もプロ野球中継は読売巨人偏重だったが、それは変わらず、しかし、今は読売の試合だって日テレが中継しない日が珍しくない。さらに一頃はプロ野球中継の延長時間が延びる傾向にあったが、今は9時前でうむを言わさず終わってしまう。


 プロ野球中継が視聴率をとれなくなって来たのはなぜか。1)各チームのファンがそれぞれCSで贔屓チームの試合を見るようになった、2)地上波しかなかった頃は各チームのファンも、野球ファンとして地上波の読売戦しか見ることができなかったが、その分の「上乗せ」がなくなった(読売ファンしか地上波の読売戦を見ない)、3)キャッチボールができる公園が減るなど、少年にとって野球が身近でなくなった、4)視聴率を支えていたファンが高齢化し、一方で若いファンの養成が遅れ、総体としてのプロ野球ファンが減少している、5)テンポの速い番組が多くなっている中、1.5時間のプロ野球中継は、山場が連続して出現するわけではないので、視聴者に飽きられている、6)コアな野球ファンが大リーグ中継に流れた。


 日本各地の球場に足を運ぶ人は減ってはいないというので、プロ野球自体の人気はそう下がってはいないようだが、そうなるとテレビの中継の問題だということになる。つまり、テレビの中継はプロ野球の面白さを伝えきれていない。各局は読売戦の中継では、読売の攻撃の時には読売の打者を話題にし、読売の守備の時には読売の投手を話題にした。そういえば、各局は一時期、やたらとタレントを中継に引っ張り出していた。野球とは関係のない話を延々と続けて、選手のプレーをおざなりにしか伝えなかったり、新番組の番宣なのかと見えることもあった。


 スポーツを見る楽しさは、選手のプレーにある。得点に関係しない場面でのファインプレーは多いし、目立ったプレーでなくても、うまいと感じさせるものがある。プロ野球だけに限らず、そうした個々のプレーを拾い、伝え、見せることがTVにはあまりできていない。