望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

伝説と奇談

 「足柄山の金太郎」と言えばよく知られた話だろうが、金時山に行って、公時神社の金太郎の碑や金太郎母子の住居跡、踏みまたがり岩などを見た人は少ないかもしれない。では「桃太郎」はどうか。桃太郎が家来を連れて行った鬼が島が実は女木島で、島に残っている鬼のほら穴の中では鬼の宝物倉跡を見ることができる。でも、行って見た人はどれほどいるのだろうか。鬼と言えば奥州安達が原の「黒塚」。真弓山観音寺境内に、鬼婆の住んだという岩屋が残っており、鬼婆が使ったとされる包丁なども伝えられている。見に行きましたか?

 観光旅行などで行ったならば、そうした“史跡”を見ることもできるだろうが、全国各地に名所・旧跡は数多あり、よほどの旅行好きか史跡マニアでもなければ、その多くを実際に見た人は少ないだろう。でも、現地に行って案内板などを読めば、興味をもって見に行く人は結構いるに違いない。わざわざ出かけるほどではないが、旅先で“史跡”に出合ったなら、見てみようかとなる。そうした出合いも旅の楽しみかもしれない。

 「伝説と奇談」という画報を古書店で見つけた。昭和36年頃に編集・世紀日本社、発行・日本文化出版社により刊行されたものらしい。A4判で82ページ、定価220円、全18巻。全国各地の伝説や奇談を地域別に、史跡や遺物等の写真や名所図解・浮世絵等をちりばめ、読みやすく紹介しており、居ながらにして全国各地の名所・旧跡をたどることができる。

 例えば「第10集 北陸篇」の目次を見ると、巻頭特集は「佐渡の金山」「金山発掘の哀話」「謎の死をとげた大久保岩見守」となっている。その後は順に、「檀風城の仇討」「人魚を食べて八百才」「とこしえに乙女の八百比丘尼」「竜王に魅入られた乙羽姫」「加賀百万石のお家騒動」「真如院の蛇責」「佐渡世阿弥」「加賀の千代女」「弥彦の鬼婆噺」「波間にえがく七字の題目」「配所の日蓮」「団三郎狢と四天王」「佐渡のムジナ一家」。ここで半分。

 続けて「姑に勝った嫁の信仰」「眼洗い地蔵の由来」「船橋の由来」「忠直卿行状記」「農民一揆の指導者 中川善兵衛」「一国訴状始末記」「今に残る越後七不思議」「豪商・銭五一代」「命をかけた河北潟干拓」「京極為兼と遊女初君」「首なし武士の行列」「無惨なや兜の下のきりぎりす」「安宅の関」「関守・富樫の情心」「松山かがみ」。巻末に読物として「化石の罰をうけた女」「北ノ庄炎上」「村雨の松」「遊女に化けた猫」「北陸あちこち」があり、ほかに多色刷口絵として国周画の「安宅の関勧進帳」と国芳画の「加賀千代女」、芳年画の「銭五の孫・千賀女」がついている。

 史実も伝承も怪奇譚も混じり合い、堅苦しさがなく、旅先で出合った物語を読むような楽しさがある。書店では定価560円くらいの分冊シリーズが多く刊行されている。鉄道もの、料理もの、偉人もの、歴史ものなど様々な種類がある。この日本各地の伝説ものも新しく編集し直せば、面白いシリーズになりそうだ。