望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

イスラエルという物語

 イスラエルパレスチナ自治区ガザへの攻撃を繰り返す。イスラエルは口実があれば、いつでも攻撃を行う。ハマスのロケット弾によりイスラエル側にも死者が出ているが、その数はパレスチナ側の死者数より圧倒的に少ない。数の多寡で死を比較できるものではないだろうが、死者数の非対称性は印象に残る。



 イスラエルはなぜパレスチナ人を大量に殺すのか。20世紀に入って欧州などからのユダヤ教徒の移民がパレスチナの地に住み着くにつれて、先住のアラブ人たちが追い出そうとし、数十人単位の殺し合いを繰り返してきた。イスラエルは1948年に独立宣言したが、以来、アラブ各国と戦火を数度交えた。イスラエルは、戦闘に勝つことにより存在を維持できたともいえるし、アウシュビッツの「教訓」なのか、殺されるより殺せという方針なのかもしれない。



 大昔にパレスチナから追放され、世界各地に散ったユダヤ人の子孫が「故郷」に戻って建国したのがイスラエルということになっているが、それは「物語」だという指摘もある。例えば、2千年近くも前に世界各地に散って、様々な混血を繰り返したのだから、同質性が保たれるはずがなく、ユダヤ教の信仰は残っていたとしても、ユダヤ人の実態は限りなく曖昧だと。



 2008年に発売された「ユダヤ人はいつ、どうやって発明されたか」(著者はテルアビブ大のシュロモ・サンド教授)では新たな説が提起された。それは新聞によると、「今のユダヤ人の祖先は別の地域でユダヤ教に改宗した人々であり、古代ユダヤ人の子孫は実はパレスチナ人だ」というもの。



 教授は、ユダヤ人がローマ帝国に追放されたという信頼できる記録(文献)はなく、19世紀にユダヤ人の歴史家が作った「神話」だとする。そして、古代ユダヤ人は大部分が追放されずに農民として残り、キリスト教イスラム教に改宗して生き、今のパレスチナ人につながるとする。パレスチナ初代首相ベングリオンも建国前に本の中で、パレスチナ人をユダヤ人の子孫としていたという。



 真偽は知らず、ユダヤ人としての「正当性」はどちらにあるのか知らないが、教授の説のように、「民族」としてのユダヤ人=パレスチナ人と、ユダヤ人だと自己認識するユダヤ教徒イスラエル人の争いが、今回のガザ紛争だったとすると、こりゃ、こじれるはずだと妙に納得する。自己認識が歪んでいるのだとすれば、和平・共存という「解」にたどり着くには時間がかかりそうだ。