望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

お札が降って来る?

 20XX年、金融危機に加えパンデミックによる経済収縮も深刻化し、デフレに陥っていた。そこで、急速かつ大幅な消費縮小に歯止めをかけ、消費を少しでも活性化させようとアメリカが、ドルとは別の政府紙幣を発行した。名称は「チェンジ」。国民全員に1人2000ドル相当になる2000チェンジを配った。



 政府紙幣「チェンジ」には条件があり、それは(1)1チェンジと1ドルは等価、(2)使用できるのはアメリカ国内だけ、(3)金融機関では預金などに使用できない(ドル紙幣との直接交換は個人にはできない)、(4)1年後には政府紙幣の機能を失い、ただの紙切れになる。つまり、手早く、消費のために使うしかない。



 政府紙幣「チェンジ」の発行でアメリカ経済がどうなったか。興味深いが、見当がつかない。(A)アメリカ経済は消費が活性化し、息を吹き返した。(B)一時的に消費は活性化したが、ハイパーインフレになるとともに、ドルが暴落した。(C)その他。どうなるんでしょうかね。



 間違いないと見られるのが、アメリカが政府紙幣発行に踏み切れば、それに続く国が出て来るだろうということ。単独では踏み切れない日本も追随するのかな。各国が政府紙幣発行に踏み切れば、世界経済がどうなるかも見当がつかないが、皆が一緒なら堕ちても仕方がない……と妙な安心感(?)が出てきたりして。





 日本で各種の給付金を政府紙幣で発行してみたら、どうなるか。政府紙幣の効果がどれほどあるのか、どんな影響が出てくるのか、テストケースになる。例えば、総額2兆円なら、全額が消費に回ったとしても、今の日本経済の状態ならインフレになる可能性は小さいだろう。



 「100年に一度の危機」という言葉がリーマンショック後に流行ったが、その言葉が本当なら「100年に一度の対応」が求められる。「非常時には非常時の対応」が必要なのだろうが、その先が大きく分かれる。通貨乱発で総需要拡大を目指すか、厳しい耐乏生活で総供給縮小を目指すか。後者を採用できる政治家はいないかもしれない。世界的に財政赤字の拡大懸念が大きくなる中、政府紙幣発行という誘惑に世界の政治家が我慢できるか、興味深い。