望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

50歳では321cm

 日本人男子の身長の平均値は、5歳で111cm、6歳で117cm、8歳で129cm、10歳で140cm、12歳で154cm、14歳で166cm、17歳で170cmだ(文科省の学校保健統計調査)。10歳代後半で身長の増加はほとんど止まり、25歳〜49歳の平均身長は171cmほど(厚労省)。

 5歳から10歳までに平均身長は29cm伸び、10歳から17歳までに30cm伸びているので、単純に計算すると、5歳から17歳まで毎年4〜5cmほど身長が伸びることになる。170cmは成年男子の平均身長とほぼ同じなので、身体的には10歳代後半で皆「大人」になるといえよう。

 もし、毎年5cmの身長増加がいつまでも続くならば、20歳で171cmの平均身長が30歳では221cm、40歳では271cm、50歳では321cmになる計算だ。だが、人間の身長の増加には何らかの抑制要因があるらしく、20歳を超しても身長が10歳代と同様に毎年増え続けることはなく、50歳で3mを超す人はいない。

 人間には身長が伸びる成長期があり、それを過ぎると身長の伸びは停滞する。もし、人間の10歳代の平均身長の増加データを根拠に、「30歳では221cm、40歳では271cm、50歳では321cmになる」と分析・予想する評論家や学者がいたなら、笑われるだけだ。データを駆使して客観性を装ったとしても、重大な見落としがあることは誰にでもわかるだろう。

 人間の成長期のデータだけで人間の一生を推しはかるのは、部分と全体の混同である。だが、部分のデータだけが判明していて、全体像が明らかではない場合に、部分のデータの数値から増加量や成長量などを計算し、全体像を予測する手法は広く行われている。特に未来予測では、そうした手法が活用される。

 現在と過去のデータ(数値)から未来を予測するときに、使用するデータの選択で予測結果は異なる場合がある。例えば、50歳時点での平均身長を予測する人が、10歳代の平均身長の増加データを使うなら「50歳では321cm」とするだろうが、20歳代のデータを使うなら「171cmぐらい」とするだろう。

 さらに、「50歳では321cm」と未来予測する側が、20歳代以降のデータを無視したり隠すことが、その主張を確かなものと見せるためには有効だろう。未来予測が高度な学問分野に関係すると、無視したり隠されたデータを見つけるのは素人には難しい。

 未来を知る人間は存在しないので、未来予測は事実ではなく解釈である。未来予測は傾向を知るために参考とするべきものだが、決定した事実ではない。さらに、使うデータによって未来予測の結果が左右されるので、誘導も可能だ。「50歳の平均身長が3mを超す」などの未来予測を、なんか変だなと見破らなければ、誘導された未来を信じることになる。