望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

新・大東亜共栄圏

 仕事の関係で知り合った中国人がいましてね、大連生まれの彼は、日本の大学を出て、日本人と結婚し、日本の会社に就職して、日本で暮らしているんです。思いつきをすぐ口にし、仕事でも自分の言い分を通すためには怒鳴り散らすのもためらわないというタイプです。ただ見ていると、感情のままに動いているようで、ネにはあまり持たないみたいです。

 彼は「愛国者」でしてね、台湾はさっさと中国に吸収されるべきだとか、北京五輪聖火リレーの抗議行動を許した欧米はケシカランとか、チベットウイグルは中国に従っていればいいんだとか、ポツンともらす言葉が面白い。中国人の平均的反応なのかどうかは分かりませんが、ニュースに関心が高いことは確かなようです。

 その彼が最近、同僚の日本人に「日本が中心になって、アジアを統合しようとした大東亜とか共栄とかあったでしょう?」と聞き、若い頃に少し左寄りだったというその日本人は「大東亜共栄圏っていうんだが、そんな言葉は、あまり使っちゃいけないんだよ」と諭すように言いました。が、中国人の彼はかまわず、「今度は中国が中心になって大東亜共栄圏をつくるんだ」と嬉しそうに言いました。

 中国人の彼が1人で考えついた話とは思えず、日本にいる中国人仲間の間で盛り上がっている話題なのか、ネットのどこかで展開されているのか知りませんが、中国がこういうことを堂々と言ってくれれば、日本にとっては好都合です。

 なぜ好都合か。1)中国は帝国主義的であることが広く「目に見える」ようになる、2)中国も日本も帝国主義的なのだから、日本による被害者としての中国の道義牲が失われる、3)中国が日本に対して使う「歴史認識問題」カードが有効性を失う。つまり、どっちも同じようなものということを中国自ら表明してくれることになります。

 現在の中国や旧ソ連は、国内に「植民地」を持つ1国内帝国主義といわれます。最近の中国の民族問題なるものをみると、チベットウイグルなどでの収奪構造がわかりますね。旧ソ連は解体し、国内の「植民地」が次々に独立しましたが、現代の中国は1国内帝国主義を維持したまま、膨張しようとしているようです。

 中国が大東亜共栄圏を日本から「継承」して、うまくいくのでしょうか。欧米への輸出頼りで成長して来た中国は、反欧米に徹するわけにもいかず、中国中心の大東亜共栄圏の理念としては何もないのが現実でしょう。つまり政治的な共栄圏ではなく、中国中心の経済的な共栄圏を目指すしかありません。それが中国中心の経済ブロックになるかどうかは分かりませんが、アジア各国との経済協定や「元」流通拡大など着実に手を打っているのは確かです。

 強権に支えられた独裁政権である中国が、日本に対して使う「歴史認識問題」カードを手放すはずはありませんから、大東亜共栄圏を公式には否定し続けるでしょう。日本は「敵失」に期待することは諦めたほうがよさそうです。