望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

戦争体験の継承


白クマゼミ 「なんで8月になると、新聞などに戦争モノが増えるンですかい? 炎天下の高校野球とともに、真夏だと感じさせる季節ダネになってしまったみたいで、アリガタ味も薄らぐってもんだ」



その日グラシ 「広島、長崎への原爆投下が8月だし、何といっても、無条件降伏したのが8月だからなあ。鎮魂の8月だ。だから8月になると日本人は、被爆者や戦争体験者の記事を新聞で読んで、二度と戦争はゴメンだと非戦の誓いを新たにすることになっている。少しのハンセイも含めて」



クマゼミ 「反省? いったい何を反省するんですかい? 勝てなかったことを反省するンなら少しは理解できますがね。日本はボロ負けして、空襲でメチャクチャになり、独立も失った。二度と戦争は致しません……っていうのは非戦の誓いなんでしょうがね、アメリカに平身低頭して許しを請うっていう図が様式化されたってふうにも見えらあ」



その日グラシ 「日本人も、外地で日本軍が勝っている時とは違って、空襲が日常化して内地が戦場になってみると、戦争という巨大な暴力の恐ろしさを多くの人が実感したんだな。そうなると、戦争が身近な現実のものになって、ボロボロになって負けた後は、戦争はこりごりだと身にしみたんだろうな」



白クマゼミ 「戦争はこりごりだというのは理解できるンですがね、そう思っているのは日本人だけなんですかい? 日本人の戦争体験は1945年で止まっているが、世界各地では戦争は何度も起きていて、いろいろな立場で戦争に参加し、あるいは巻き込まれ、膨大な戦争体験が世界の人々の間に積み上げられているはずだ」



その日グラシ 「日本人の戦争体験じゃなければ読者に訴える力が弱いとでも新聞社は考えているンだろう。情緒に訴える力が肝心だなんてね」



クマゼミ 「日本人の戦争体験で、独自なものって何ですかい? 日本人じゃなければ伝えることができないものってのは」



その日グラシ 「被爆体験は日本人じゃなければ伝えることができまい。自国の多くの兵士が戦地で餓死したってのも特徴的だな。特攻など自殺攻撃を組織的に行ったのも日本独自かもしれない。ボロボロの負け戦の責任者が追求されなかったのもそうかもしれない」



白クマゼミ 「そういう日本人にしか伝えることができないことは、伝えていくべきでしょうがね。世界で戦争が起こっているのは8月に限ったことじゃないンですから、日本人に限らず世界の人々の戦争体験をマスコミはもっと積極的に伝えていくべきだと思うンですがね」



その日グラシ 「その通りなんだが、問題は、8月以外に大量の戦争記事を読者がさて、読んでくれるかどうか」



白クマゼミ 「空襲など同じような体験でも日本人の体験は、日本人にとって特別なものなんですかね」