望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

言い返す

 日本は世界に向けての情報発信が下手だとの指摘がある。外国メディアの日本関連ニュースが正確でないと見えたり、日本批判の論評を偏った見方だと受け止めたりすると、誤解や曲解が広まっていて日本が「正しく」理解されていないと悔しがる。そして、情報発信を強化しろとの声が上がる。

 情報発信が下手とは、外国のメディアなどに理解不足や誤解があり、その主因は日本側にあるとの認識だ。だから日本からの情報発信を増やせば、「相手は正しく理解してくれる」に違いないと期待して、日本側の情報発信を改善しようと考える。一方で、外国メディアなどの日本礼讃は、理解不足や誤解があっても無邪気に嬉しがる。

 一般に理解不足や誤解がある場合、①情報の発信側に問題がある、②情報の受信側に問題がある、③双方に問題がある、に分かれる。外国メディアに問題があって理解不足や誤解になっているなら、日本側の情報発信を増やしても効果は限られようし、外国メディアに日本に対するバイアスや偏見があるなら、日本が発信をいくら増やしても期待する効果は得られないだろう。

 「話せば相手は理解してくれる」との期待は、相手が「聞く耳を持たない」なら空回りする。日本の情報発信が下手だから外国メディアに理解不足や誤解があると反省して、日本からの情報発信を増やしてもスルーされるだけだ。どこの国でもメディアが、特定の価値観に基づいてニュースや論を仕立てることは珍しくない。

 下手なのは、情報発信ではなくて日本のリアクション(反論)だとすると、必要なのは、情報発信量を増やすことではなく、言い返すことだと見えてくる。もちろん、情緒的な言葉や罵倒、中傷で言い返すのは禁物で、根拠が乏しい主張も逆効果だ。言い返すとは、相手を説得するための行為であると認識し、相手の理性と知性と理解力に働きかけること。

 理解不足や誤解が生じるのは、①情報の不足、②情報収集の偏り、③情報の解釈の偏りーが原因だが、④意図的な誤解(批判することが目的)の場合もある。言い返す(説得する)場合には、相手の理解不足や誤解の原因を見極めて言い返し、理解不足や誤解があると相手に認識させなければ、相手は認識を変えないだろう。

 何を言われても、言い返さなかったり、おずおずと小声で反論するような人は、何を言ってもいい対象だと甘く見られたりする。言い返すことは相手に理解不足や誤解を気づかせてあげることであり、言い返しの応酬が続くだろうが、そうした積み重ねでコミュニケーションは深まろう。