望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

政権交代のチャンス

 感染爆発という状況に現在の政府が無力とも見えるのは、最優先の課題が何かをはっきりさせることができず、状況の後追いで手一杯だからだろう。新規感染者が大幅に増え、医療体制は逼迫し、経済活動の浮上のメドは立たず、生活に困窮する人々が増え、一方で外出自粛を呼びかけても人々はあまり真剣には受け取らなくなった。

 現在の政府は、人々に向けてポジティブなメッセージを発することもできていない。長引くパンデミックに人々は自分や家族らの感染の不安のほか、収入減や失職などによる生活不安などに直面し続けている。政府や政治家が人々に「よりそって」いるのなら、人々の不安を鎮め、少しでも前向きの気持ちを持ってもらうためのメッセージを発するだろう。

 政府が無力で人々の政府に対する信頼も低下していると見える今、野党は総選挙を待たずに政権交代を要求するチャンスだ。状況の後追いだけの現在の政府と与党にすぐ下野することを要求し、感染爆発の状況にも「我々なら、もっと適切な対応ができる」と具体的な政策を掲げ、人々の支持を得て新しい政府を形成するチャンスだ。

 だが、野党は政府を批判するだけで、現在の政府や与党に代わって政権を担おうとする姿勢を見せない。それは、第一に野党に政権をいつでも担うという意思がないからだ。第二に政権を担う準備がなく、独自の具体的な政策がない。第三に政府を批判するだけの存在である野党という立場に満足しているからだ。

 政権を担う意思がなく、政権を担う準備がなくても、野党が人々に「よりそって」いるのなら、人々の不安を鎮め、励ますメッセージを独自に発することはできる。だが、それも野党は行わない。政府を批判することだけが自分たちの責務だと思い込んでいる気配で、野党の議員は国会議員として相応の収入と地位を維持できることで満足し過ぎているのではないかと疑いたくなる。

 野党に独自の政策があったなら、長引くパンデミックに無力と見える政府が下野しない場合、緊急時における総力戦体制として閣外協力する方法もある。だが、野党は政府批判だけで、事態の打開に向けて具体策を示して協力する姿勢を示さない。政権の支持率が低下傾向だから野党は総選挙で有利かというと、野党に対する支持率は低迷する政府に対する支持率よりはるかに少ないのが現実だ。

 政府も与党も野党も、つまり政治家も政党も人々に「よりそって」いない日本の現在。人々の不安や痛みや嘆きなどを掬い上げて国政に反映させるのが民主主義における政治家や政党の責務だろうが、政治家が「上級国民」に化しているのなら、人々は統治や支配の対象でしかない。これは、主権者である人々が権力に従順であり続けたことが招いた状況でもある。