望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり





東京脱出

 日本にとって東京は、国会や中央省庁がある政治の中心であり、大手企業の本社が集まるなど経済の中心でもあり、大手の新聞社・テレビ局・出版社が集中するメディアの中心でもあり、博物館や美術館などが集まる文化の中心でもある。さらには、若者が集まり、流行発信の地ともなっている。



 なぜ、こうも東京に集中したのだろうか。新幹線や航空機など交通網が発達したので、地方にとって東京は「近く」なり、企業などが東京に常駐する必要性は低下したはずだが、東京への集中が進むほどに、さらに東京集中を促すという皮肉な状況になっている。



 一方では、地方の疲弊が東京集中を一層促すという悪循環もある。一昔前、地方の若者は第2次・第3次産業の企業に就職するため都会に出たが、現在は第1次産業が斜陽産業化し、地方では就職先が限られるため若者は都会に出て行かざるを得ず、地方の人口は減り、高齢化が進み、購買力がますます減少する。



 東京への一極集中は、官民挙げての中央集権化の現れだとも見えるが、この東京集中には大きな弱点もある。最大のものは関東大震災の再来。次には、日本という国の構造が重層的でなくなり、平板化すること。政治の中心は東京、経済も東京、文化も東京、世論もファッションも流行も東京となれば、地方が生き生きとなれるのはB級グルメで賑わう時だけ?



 地方を活性化するには企業が地方に戻ることがいい。企業の本社が東京に集中するのは情報収集・発信やステータスなどを考慮してのことだろうが、防災面の東京の脆弱性や高い地価、事業展開のグローバル化、インターネットなど情報通信網の発達を踏まえると、東京偏重を再検討し、必要な人員だけを残して東京本社を縮小すべき好機に来ているのかも知れない。



 地方都市ならサラリーマンだって2千万円台で一戸建てのマイホームを持つことができようし、通勤時間も短くなろう。一般的に地方の生活環境は東京よりマシだろうし、物価は安く、農産物や魚介類など新鮮な食材も入手しやすいだろうから社員にとっても利点がある。企業が東京本社から人員を移すことにより、地方経済に購買力がもたらされる。



 アメリカではIT企業はニューヨークに集中せず、むしろ環境のいい土地に社屋を構えている。日本ではIT企業も東京に集中している。IT企業こそ東京にいる意味は薄く、環境のいい土地でネットを生かして仕事ができるだろうに、東京それも都心部に集まる。



 なぜなのか不思議だったが、幹部ら金回りのいい連中が夜遊びするのに好都合だからIT企業は東京を離れないのさという解釈を聞いたことがある。確かに東京は一大歓楽地でもある。もしかして、政治家も官僚も経済人もサラリーマンも学生も若者も東京を離れたがらないのは、そのためか。