望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

ただのカゼ

 日本でも接種が進むCOVID-19ワクチンの効果について厚労省サイトでは、①ファイザー社のワクチンでは約95%、武田/モデルナ社のワクチンでは約94%の発症予防効果が確認されている、②実際に接種された人の情報を集めた研究等から重症化予防効果を示唆する結果が報告されている、③感染を予防する効果については承認前の臨床試験では確認されていない。

 ①は、「100%の発症予防効果が得られるわけではない」ので「ワクチン接種後でも感染する可能性はある」が、約94〜95%の発症予防効果があるので感染は相当程度抑止できることを示す。外国ではワクチン接種者は接種していない人よりも感染者の発生が少ないとの報告もあるが、臨床試験ではないのでデータの扱いに注意を要すると厚労省

 重症化予防については、ワクチン接種が進む各国で重症化する人や死亡者が減少していると報じられているので、効果はあると見てもよさそうだ。早期のワクチン認証による世界規模での「人体実験」という挑戦が、現在のところ成功した形だ。英国での調査では、接種者の91%に抗体が確認され、感染数や感染後の重症化リスクが下がったと報告されている。

 だが、ワクチンの効果はウイルスとの関係で変動するとの報告もある。イスラエル保健省は、ファイザー社ワクチンの感染予防効果が6月以降、従来の95%から64%に低下し、デルタ株の影響の可能性があるとした。重症化を防ぐ効果は従来同様の93%という。各国に先んじてワクチン接種を進めたイスラエルで新規感染者は減少、国内で規制を緩和したが、感染者が増加に転じた。

 イスラエルの発表したデータが各国にもそのまま当てはまるのか不明で精査が必要だろうが、ワクチンが万能ではないことは特に中国製ワクチンの大規模接種を進めた国に顕著だ。ただ、ワクチン接種の拡大とともに規制を緩和するのだから人々の接触機会が増え、感染者が増加するのは当然だろう。規制緩和で感染者が増えたとしても、重症化する人や死者を減らすことができるとすればワクチン接種の効果はある。

 ワクチン接種によって、新規感染を抑止することはできなくても、重症化や死亡する人を減らすことができるなら、ワクチンはCOVID-19を「死に至る病」から「ただのカゼ」へと変える。世界各地で感染者数は増減を繰り返しているので、いつかCOVID-19が雲散霧消するとの期待は薄らいだが、「ただのカゼ」になるなら病としての深刻さは低下しよう。

 ワクチン接種で重症化を抑制でき、死者も減っていると英国は法的規制をほぼ解除する。イベント等の人数制限も撤廃し、パンデミック前の日常に近づける計画だ。ワクチン接種により集団免疫を獲得し、COVID-19と共存する日常を実現する狙いだが、再び新規感染者数が増加傾向の状況で、英国の試みの結果がどうなるか。世界が注視する中で英国は新たな「人体実験」に踏み切る。