望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

AMからFMへ

 日本初の民放ラジオ局である中部日本放送新日本放送が開局したのは70年前の1951年。次々と全国でラジオ局の開局が続き、相撲中継や野球中継、連続放送劇、リクエストによる歌番組、クイズ番組など多くの人気番組が誕生、ラジオは全盛期を迎えたが、やがてテレビの普及とともに聴取者は減少した。広告費減少などでラジオ局の経営は厳しく、2019年度の全国のラジオ局の売上高合計は3年連続で減った(帝国データバンク調べ)。

 FM局も全国各地に誕生したが、ラジオの主力はAM局だった。人気パーソナリティによるワイド番組や深夜放送など人気番組はAM各局に存在し、インターネットによる番組配信などで新たな聴取者の開拓も進めているが、全盛期のような多くの聴取者を獲得することはできていない。広告の出稿はインターネットに向い、ラジオ局の前途は先細りとの見方があった。

 こうした中、全国の民間AMラジオ47局のうち東京のTBSラジオ文化放送ニッポン放送を含む44局が2028年秋までにFM放送への転換をめざすと表明した。全局がFMに完全移行するのではなく、AMを併用する局もある。また、北海道と秋田の民放3局は放送エリアが広大であることなどからAM放送を続けるという。

 FM波の到達範囲は100km程度とされるが、AM波の到達範囲はもっと遥かに広く、山かげなどにも電波が回り込むので山かげに住む人にも届く(FM波は回り込みにくい)。音質はFM波がAM波よりいいとされるが、安価なラジオで聞く限りでは音質の差は目立たないだろう。ラジオ局がわざわざAM放送からFM放送に移行するのは、放送設備などのコストがFMよりAMのほうがかかるから。

 AMの波長は約200〜600m。送信アンテナの設置には広い場所が必要で波長約500mの大型のアンテナとなる(FMは波長3〜4m。送信アンテナの設置場所は山頂や鉄塔など高い場所。波長約4mのアンテナだから、AMに比べかなり小型ですむ)。広告収入も聴取者も減り、経営が厳しいAM局にとって設備の老朽化などもあって、ラジオ局を続けるならAMを維持するよりFMに転換したほうがコストがかからない。

 AM局はすでにワイドFMでも放送も行っている(従来のFM放送は周波数76MHz~90MHzだが、90.1MHz~95MHzを用いてAM番組を放送するのがワイドFM)。災害対策や難聴対策のためということだが、AM局のFM移行の試行のようでもある。AM局のFM移行は総務省でも検討され、22年以降にFM移行を認める制度改正とAM停波の実証実験を始めるという。

 AM局がFMへ移行すると、聴取者はワイドFMを聞くことができるラジオを用意しなければ聞くことができない(従来のFMの周波数しか受信できないラジオでは聞くことができない)。FMよりもインターネット専門ラジオ局に移行したほうが簡単なようにもみえるが、ネット専門ラジオ局になれば更なる聴取者減少は免れまい。FM移行に聴取者がどれだけついてきてくれるかーこれは現在のAMにどれだけ魅力があるのかを示す。