望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

クマの生息数

 札幌市内の住宅地に早朝、クマが現れ、住民や通勤の人ら4人を襲って重軽傷を負わせながら移動し、約8時間後に丘珠空港近くの茂みで猟友会のハンターにより射殺された。このクマは体長が約1.6メートル、体重158キロの5〜6歳のオスだった。札幌市内でのクマの出没は珍しくなく、毎年、ニュースになって警戒が呼びかけられる。だが、市内でクマに襲われて負傷者が出たのは20年ぶりという。

 クマが人里に現れたとの情報は全国で年間2万件ほどあるという。4月頃から増え始め、冬眠前の11月頃までが多い。クマが人里にまで現れるようになった理由を専門家は①過疎化により里山などが荒廃し、クマの行動範囲が拡大、②住宅地の拡大でクマの生息地域と重複、③クマの生息数が増加、④人の怖さを知らない世代のクマが増加、⑤生ゴミや園芸栽培の作物などを狙ってクマが動くーなどを指摘する。

 クマは警戒心が強い臆病な動物なので、例えば住宅地と里山の間にある中間地で除草を徹底して見通しをよくすればクマの行動を抑制でき、住宅地への侵入を防ぐことができるとの見方もあるが、検証データは乏しい。今回のクマは用水路を伝って移動していたとの見方もあり、クマの市街地への侵入経路は多々ありそうだ。

 クマの生息数が増えているから、山から中間地を超えて市街地にまで行動範囲が広がっているとの見方も多い。クマが増えて人の生活空間に入ってくると、人とクマの共生は同じ空間では不可能だから、クマを駆除して人の安全を確保することになる。だが、クマが増えているとは言われるものの、それを示す確かなデータはない。

 ヒグマの生息数を北海道は10600頭プラスマイナス6700頭と推定した(2012年)。少なければ3900頭、多ければ17300頭とプラスマイナスの数字の幅は広く、実態は分からないということだ(従来のモニタリングや調査で蓄積された科学的データを用いたコンピュータシミュレー ションに基づき推定したそうだが、こんな大雑把な数字では実態に即した有効な対策を講じることは難しいだろう)。

 ヒグマの生息数は1990年比で1.8倍に増えたと北海道は推定するが、推定生息数は3900頭〜17300頭と実態は定かでないのだから、1.8という数字の根拠は希薄だ。増えていると関係者は見るが、その実体はぼやけている。なお北海道の推定10600頭の地域別の内訳は、道東・宗谷4200頭、日高山系2800頭、渡島半島1400頭、天塩・増毛1000頭などという。

 クマの生息数が増えていると確かめるには、もっと正確な生息数の調査が必要だ。タンチョウヅルなどでは目視による調査が可能だが、用心深く行動するクマの調査は簡単ではない、だが、ハンターや農業従事者などに聞いた話を元にコンピュータシミュレー ションしたところで大雑把な数字しか出てこない。クマの生息数の実態を把握しなければ対策は空回りする。全国で市街地へのクマの出没件数が増えているのだから、クマによる被害を防ぐとともにクマの過剰な駆除を避けるためには、正確な生息数という基礎データが必要だ。