望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり





聞き慣れない地名

 埼玉県さいたま市は01年に浦和、大宮、与野の3市が合併して誕生(05年には岩槻市編入)、浦和市も大宮市も消えた。静岡市は03年に旧・静岡市清水市が合併して誕生、清水市の名は消えた。ほかにも合併で消えた市名は多い。例えば、西東京市の誕生により田無市保谷市が消え、奥州市の誕生で水沢市江刺市が消え、浜松市編入されて浜北市天竜市が消えた。町村単位ではさらに多くの名が消えた。



 一方で市町村合併により、聞き慣れない名が増えた。南アルプス市四国中央市さくら市みどり市東かがわ市ふじみ野市つくばみらい市にかほ市あさぎり町など、土地の歴史に縛られないというか、土着性を放棄したような名で、妙に上滑りしているように感じるのは、それらの土地を知らない者の印象だろうか。



 聞き慣れない名はもっと増える可能性があった。採用されなかったが、ひばり野市とか太平洋市中央アルプス市南セントレア市、桜宮市、ひらなみ市、れいめい市といった名も市町村合併では検討されていたという。そういえば銀行の合併でも、ウケ狙いかと勘ぐりたくなる名があったり、政党の名も時流便乗型の名があったり、新しく名を付けるというのは難しい。



 企業や政党は人間がつくったものだから、どんな名をつけても許容範囲が広いのだろうが、地名は土地の「記憶」と結びついているだけに、上滑り感が際立つ。市町村制などは人為的なものだから、人為的な名をつけてもいいのだろうが、単なる記号で済まされないのが地名だから、新しい名をつけるとなると議論百出、どんな名の候補にもケチがつく。



 土地の範囲が狭くなるほど、地名は土地の「記憶」と強く結びつく。古くからの細かな地名には、湿地だったり、崖下だったり、鉄砲水が出たりする場所を示す名がついていたりしたというが、開発されれば名も変わり、挙げ句の果てが「○丁目○番地」などとなる。京都は「○丁目○番地」を拒否し、独自の地名を守っているが、王城の地だから霞ヶ関の官僚も手を付けられなかったのかな。



 市町村合併で聞き慣れない名が増えたのだから、新奇な市の名がもう一つ現れても、どうってことはないと考えたのかどうかは知らないが、2012年に大阪府泉佐野市が名称の命名権を売却し、企業名や商品名に変更することを認めることを決め、波紋が広がった。財政破綻の危機で、少しでも歳入を確保しようということだったらしい。