望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

ちょっと一手間

 即席麺は世界で食べられている。世界の即席麺の販売量(2018年)は1036億食で、1位は中国の402億食。次いでインドネシア125億食、インド61億食、日本58億食と続く。日本はインドに抜かれて4位になった。インドは人口が日本より遥かに多いので、日本との差は今後もっと開くかもしれない。

 日本では袋麺が17億6220万食、カップ麺が39億6129万食とカップ麺のほうが圧倒的に多く食べられている。湯を入れるだけと調理が簡単なカップ麺は若者層などに人気で、袋麺はファミリー層に人気だとか。カップ麺に比べると袋麺は調理に手間がかかることになるが、料理全体の中で見ると袋麺は調理が簡単な食品だ。

 その袋麺を毎日食べているというのが友人。離婚し、定年退職してから気ままに1人で暮らしているが、自宅での夕食は袋麺で済ますという。以前は米食を続けていたのだが、おかずを作るのが面倒になり、スーパーやコンビニで惣菜を買って来て食べるのにも飽きてきた。そんな時に、袋麺は調理に一手間をかければ格段に美味しくなることを発見し、それからは袋麺の夕食を続けているという。

 友人のいう一手間とは、出汁の活用。といっても、専門店のように鶏ガラや野菜などを煮込んでスープを作るのではなく、最初に湯を沸かす時に出汁も取る。専門店のように鶏ガラなどでスープを作れば格段に美味しくなることは確かだが、それでは調理の手間をかけすぎると友人。簡単に食べることができるという即席麺の存在意義に反するとする。

 友人の方法はこうだ。①調理する1時間以上前に鍋に水を入れて、そこに昆布または煮干しを入れておく、②火をつけて沸騰してから昆布または煮干しを取り出す、③沸騰した湯に麺を入れて煮る、④最後に添付の粉末スープを入れる(粉末スープは全部を入れず、多くても半分しか入れない。全部を入れると粉末スープの味が強すぎて、出汁の味わいが霞んでしまう)。

 出汁を取る材料は、昆布または煮干し以外にもいろいろあるが、友人はまだ試していないのだという。煮干しで出汁を取る時には、沸騰させた後もアクを取りながら煮続けるとされているが、丁寧にアクを取るなんて面倒だからアクが出る前に取り出すと友人。また、粉末スープを多くても半分しか入れないので薄味になるが、薄味だから出汁の味わいが分かり、濃い味付けを好む人には出汁の味わいが分かるはずがないと友人は言う。

 次は鰹節で美味しい出汁を取る方法を見つけると友人。昆布、煮干し、鰹節を組み合わせる出汁の取り方もあるから、一手間かける袋麺の調理法はけっこう幅広い。出汁を取るには他にも干し椎茸、貝柱、鳥や牛など肉類、野菜なども使われるが、あくまでも一手間の範疇に限るのが袋麺に似合っているから、本格的な調理には手を出さないと友人。

 袋麺には様々な種類があり、気分によって銘柄を変えて味の違いを楽しむことができるので飽きることはなさそうだし、牛乳を加えて、まろやかにしたり、バターを入れて、こってり感を出したりと、友人の一手間の探究はまだまだ続きそうだ。