望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり





新生日本が「還暦」

 還暦は、現在では満60歳をさすのが一般的だ。なぜ60歳を特別視するかというと、干支が一巡し、生まれ年の干支に戻るのが60年後だからだ。本卦がえりともいう。60歳というと一昔前は定年年齢で、いわば第二の人生の入口(=第一の人生の出口)だったが、現在では60歳になっても第一の人生が続いていたり、60歳前に第二の人生を始めることを余儀なくされたりする。

 干支は十干十二支を組み合わせたもので、国語辞典によると干支は「木・火・土・金・水の五行をそれぞれ陽の『え』と陰の『と』に分けて十干に配し、それと十二支を組み合わせ、60を一回りとして年月日に当てる」。十干は甲・乙・丙・丁・戊・己・庚・辛・壬・癸の10種類、十二支は子・丑・寅・卯・辰・巳・午・未・申・酉・戌・亥の12種類。

 西欧文明が一般化する以前、干支は暦のほかに時間、方位などにも用いられたが、現在の日本では、ね、うし、とら~の十二支が生まれ年の干支として使われている程度だ(年賀状では大活躍するが)。十干十二支の干支の感覚と現代社会のズレは大きくなっているが、還暦には、人生の一区切りとしての意識がまだ残っているようだ。

 日本にとって2012年から60年前の1952年は、主権を回復した年だった。降伏・敗戦により日本は1945年8月以来、連合国の占領下に置かれていた。サンフランシスコ平和条約が1952年4月28日に発効したことにより連合国の占領が終わり、日本は主権を回復した。いわば日本が再独立を果たしたのが60年前の4月28日だったので、2012年は新生日本の「還暦」である。

 この60年で新生日本は、急速な経済発展で世界第二位の経済大国になり、人々の生活レベルなどは格段に向上した一方、バブルに踊り、その破綻後は長く続く低成長に喘ぎ、追い討ちをかけるように東日本大震災福島第一原発事故。「還暦」を迎えた新生日本は、それなりに豊かな暮らしをしているが、借金も多く、仕事のほうはイマイチで、さらに原発地震の備えやらで出費がかさむという、心配な「第二の人生」の始まりだ。

 でも、国の「第二の人生」は余生ではない。高齢化が進んでいるとはいっても日本という国に「寿命」があるわけではなく、60年以前に焦土の中から人々が立ち上がったように、二十代、三十代がこの停滞から抜け出し、新たな日本の60年を築いていくと期待したい。

 新生日本の1952年以来の成功のカギは、戦争(体制)に背を向けたことだ。新たな60年を築くカギは、日本がさらにオープンになり、世界ともっと融合することだろう。冷戦終了後の世界はフラットになりつつある。国境に関係なく商品が行き交い、人が行き交い、情報が行き交い、金が行き交う。イデオロギーでは国境の壁は崩せなかったが、経済は国境の壁を越えた。オープンな世界でオープンな日本が生きる……それが日本の「第二の人生」だ。