望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

機動的な対応に失敗

 まん防とは「まん延防止等重点措置」の略称である。これは「地域の感染状況に応じて、期間・区域、業態を絞った措置を機動的に実施できる仕組み」(内閣官房HP)で、「集中的な対策により、地域的に感染を抑え込み、府県全域への感染拡大を防ぎ、更に全国的かつ急速なまん延を防ぐ」ことが目的という。

 まん防は緊急事態宣言の前段階として新たに設定されたものだが、都道府県など自治体が地域の感染状況に応じて自由に発令できるものではなく、要請に応じて国が実施を決める。「機動的に実施」するなら全国の市町村がそれぞれの感染状況に応じて発令や解除を適時行うほうが効果的だろうが、政府は規制の権限を手放さない。

 全国各地で以前の緊急事態宣言の発令時と同様の感染状況に悪化してから、まん防の適用を政府は決めた。まん防の適用は緊急事態宣言レベルより感染状況が軽度の場合のはずだが、感染状況は緊急事態宣言にふさわしいレベル。まん防と緊急事態宣言の発令基準の違いは微妙で、政府や官僚の裁量権が増しただけとも見える。

 まん防は、緊急事態宣言の発令時のような経済活動へのダメージを少しでも軽減するために設定されたものだが、政府がもたもたして感染状況の悪化を後追いしているだけとなっては、まん防の存在の意味が薄れる。まん防という新たな基準の設定は混乱を増やしただけで、緊急事態宣言との違いを人々は実感できないだろう。

 まん防は、政治が出すメッセージとしては失敗例だ。緊急事態宣言の前段階として人々に警戒心を高めるように促すはずのシグナルが、状況認識の複雑化をもたらし、より混乱を招くだけとなった。まん防のような人々に理解されない政治メッセージでは効果は限られ、感染拡大防止の効果は期待できない。

 新型コロナウイルスに対する警戒シグナルは都道府県独自のものもあり、感染状況や医療逼迫状況に合わせて、それぞれ数段階に分かれる。各都道府県が独自に設定するので名称も各段階の基準もばらつきがあり、ぱっと見ただけでは理解しにくい。人々が全国を自由に移動する現在、政府は各都道府県の基準に共通性を持たせて、人々の警戒心を高め、行動変容を促す方向へ導くべきだろうに、まん防という新たな基準を政府が設定し、混乱を増やしている。

 政府や官僚は感染拡大を裁量権の拡大にうまく使った。都道府県が独自に警戒シグナルを発するより政府に判断を一本化したほうが感染拡大を効果的に抑制できるなら喜ばしいが、実際は政府や官僚は機動的な対応に失敗し、各地での感染拡大をもたもたしながら後追いしているだけだ。感染拡大の波はこれからも次々と続くことを覚悟した方がよさそうだ。