望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

ラジオ体操

 ラジオ体操というと、子供の頃の運動会や夏休みの朝を思い出す人が多いだろう。でも多くの人にとってラジオ体操は、大人になるとともに縁遠くなる存在だ(工場などでは、始業前などに皆で行うところも珍しくないが)。そのラジオ体操が、実はダイエットに効果的だと説く本が売れ、見直されているという。



 ネットで検索すると、「全身に偏りなく、どの部分の筋肉にもアプローチするところがラジオ体操の見事な部分」とか「ラジオ体操を行うことで肩こりや腰痛が改善したり、くびれやヒップアップなど美しいボディラインづくりにも役に立つ」「ラジオ体操は有酸素運動として大変優れた効果をもたらす。消費カロリーは速いペースのウォーキングとほぼ同じ。普通のスピードで行うサイクリングや平均的な歩行、野球の野手より消費カロリーは高い」などの言葉を見つけることができる。



 ダイエットや健康増進に関しては次から次と「新方式」が現れ、もてはやされては消えて行く。ラジオ体操は新方式ではないが、ダイエット・健康増進という新たな評価尺度で見直された。ハードなトレーニングではないラジオ体操は、多くの人が子供の頃に覚えているから、取り組みやすい。おまけに、ジムなどに通うのに比べて、費用はかからず、自宅でいつでもできる手軽さがある。それで実際に効果があるとすれば、最強のダイエット方法かも。



 放送時のラジオ体操は、ピアノの伴奏に「腕を前から上に上げて、大きく背伸びの運動から」「手足の運動」などと指導するナレーションがかぶさる。子供の頃に覚えているから、放送を聞いていても曲に合わせて手足の動きを連想するが、ピアノ伴奏をじっくり聞くと、なかなかいい味だ。作曲は服部正氏(第1)。



 日本で最も聴かれているピアノソロ曲ともいえるラジオ体操。テンポがよく、4小節単位で次々と展開していき、ピアノの響きが明るく、バラエティー豊かだ。この曲をベースに膨らませれば、長大な楽曲にもできそうな気もするが……でも聴衆の多くはラジオ体操を知っているから、音楽としての“自立”は難しいかな。



 ラジオ体操の放送では、指導する人が、展開に合わせて「1、2、3、4」と号令をかけたり、タイミングよく「腕を振って、体をねじって」「大きく体を反らして」などと言葉を挟む。決まった台詞があるようだけれど、人によって微妙に違っていたり、声の調子が様々だったりする。以前に聞いた女性の指導員はハイテンションで、妙におかしかった。指導する人によってラジオ体操の印象はけっこう変わるもんだ。



 例えば、高倉健が指導するラジオ体操はきっとボソボソ口調ながらも皆の動きにケジメがつき、渥美清の寅さんでは歯切れがいい体操になりそう。石原慎太郎では命令口調で「俺に従え」といった調子で皆は緊張し、桃井かおりでは、やりたくなければ、やめれば?といった調子で皆がダレて、石破茂では、ねちっこく細かい指示を皆、聞き流しながら体操するのかな。