望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり





「六道遊行」(上)

 仏教でいう六道とは大辞林によると、「すべての衆生が生死を繰り返す六つの世界。迷いのない浄土に対して、まだ迷いのある世界。地獄道・餓鬼道・畜生道修羅道・人間道・天道。前の三つの世界を三悪道、あとの三つを三善道という」とある。道に迷っているばかりの人間に関係がある世界観のようだ。

 ついでに個別の説明を見ると、地獄道は「地獄」、餓鬼道は「飲食が自由にならず、飢えに苦しむ世界」、畜生道は「畜生の世界。悪行の結果、死後生まれ変わる畜生の世界。人間として許し難い行為や生き方」、修羅道は「阿修羅道。阿修羅が住み、常に争いの絶えない世界」、人間道は「人道。人間として守るべき道。人の人たる道」、天道は「天人の住む世界。欲界・色界・無色界の天をいう」とある。



 どうやら輪廻と関係があるようで、「六道輪廻」を見ると「衆生が自分のつくった業により、六道の間を生まれ変わり死に変わりして迷い続けること」。道に迷っているばかりの人間はどうやら、死んだ後も六道のどこかに生まれ変わって、迷い続けるという発想のようだ。どこに行くかは当人次第で、悪行を重ねた人生を送った人は三悪道のどこかに生まれ変わり、さほど悪行をなさなかった人は三善道のどこかに生まれ変わるという筋書きか。



 輪廻という発想は独特だが、大辞林は「生あるものが死後、迷いの世界である三界・六道を次の世に向けて生と死を繰り返すこと」と説明する。三界って何だ? 「心をもつものの存在する欲界・色界・無色界の三つの世界。仏以外の全世界」のことだという。



 見慣れない用語が次々に出てくる。欲界は「無色界・色界の下に位置する。食欲・貪欲など欲望のある世界。六欲天・人間界・八大地獄のすべてを含む」、色界は「欲界の上に位置し、無色界の下にある。四禅を修めたものが死後に生まれ変わる世界で、初禅天から四禅天の四つに分かれる。淫欲・貪欲などの欲を脱しているが、まだ物質の制約を逃れていない世界」、無色界は「欲界・色界の上に位置する。物質や物質的な思いから解き放たれ、受・想・行・識の四蘊のみから成る。無色界の最上天の非想非非想天を有頂天という」とある。



 理解しようと辞書のページをめくっても、また、見慣れない用語が次々と出てくる。ついでだ。続ける。六欲天は「欲界に属する六種の天上界。四王天・トウ利天・夜摩天兜率天楽変化天他化自在天の総称」、八大地獄は「八種の地獄。すなわち、等活・黒縄・衆合・叫喚・大叫喚・焦熱・大焦熱・無間の称」、四禅は「四禅天。禅を修することによって生まれ変わるとされる、色界の四天。初禅天・第二禅天・第三禅天・第四禅天の総称」……。



 迷路に入っていく感じで、分からない言葉が次々に出てくる。仏教の世界観に共感するでもなく、理解しようという気持ちもないので、見慣れぬ言葉を次々に追って行っても、全体像は見えてきそうにない。それにしても、三界・六道があるってことを誰が確かめたんだろう? 宗教とは、検証不可能なことでも、正しいと信じることだろうか……やはり、私は宗教には縁遠いようだ。<(下)に続く>