望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

狛犬と阿吽

 

 神社の入口あたりで、参拝者を出迎えるのが狛犬。向かって右側が、口を開けている阿形、左側が、口を閉じている吽形だ。両方が揃うと阿吽の呼吸ということになるのか。狛犬といっても、犬の仲間ではなく、想像上の生き物。昔は、阿形のほうが獅子で、吽形のほうが狛犬だったというが、現在では両方とも獅子のようになっているところが多いのに、呼び方は両方とも狛犬に落ち着いたようだ。



 阿吽とは、「口を開いて発する音声と、口を閉じた時の音声」のことだとか、「最初に発する言葉と、言葉の終り」だとか、「吐く息と吸う息」だとか様々に言われる。そこから「万物の初めと終りを象徴する」なんて解釈もあるそうだ。



 阿吽は狛犬だけではなく、例えば、東大寺南大門の金剛力士像などに代表される仁王像も阿形と吽形が対になっている。口をかっと開けている阿形も、口を閉じて歯を食いしばっているような吽形も、どちらも力感がみなぎっている造形で、迫力のあるものが多い。寺社内に敵が入ることを防ぐ役目があるというから、力強くあることが求められるのだろうな。



 闘う時に口を大きく開けたなら、力が抜けるようなイメージもあるが、戦国時代などの合戦で戦端を開く時、ワアーなどと大声を発しながら突進するのだから、口を開けても力は入るのだろう(合戦は、映画やテレビで見ただけだが)。それに、ライオンなどの肉食獣は、獲物に襲いかかる時や敵と戦う時には、口を開けて牙をむき出しにする。肉食獣が襲いかかる時に、黙って口を閉じたままでは、使える武器は爪だけになる。



 人間には力を入れる時に、口を結ぶタイプと、口を開けるタイプがあるようだ。重いものを何人かで持ち上げる時に、「せえ~の」で力を合わせて、口を閉じてウンと息を出して力を入れる人が多いように思えるが、声を出す人もいる。そんな時に他の人の顔を見たことはないが、声を出している人は口を開けているのかもしれない。



 野球のバッティングでは、構えている間もスイング中も腕に力を入れず、インパクトの時にだけ、球に負けないように力を入れるのだという。力をこめるインパクトの時に、多くのバッターは口をぐっと閉じる。王選手などプロ野球で活躍した人で、奥歯がガタガタになった人は珍しくないというから、相当の力の入れ具合だな。



 反対に、インパクトの瞬間に大きく口を開ける人もいる。例えば、長嶋茂雄さんや宇野勝さん。二人とも何やら“天然”のイメージが共通するようで、力を入れる時に口を開けるのは陽性のタイプなのかと思いたくなる。



 長嶋茂雄さんと松井秀喜さんは国民栄誉賞を授与された。松井秀喜さんはインパクトの時に、口をぐっと閉じるタイプだ。阿形のバッターと吽形のバッターが対で揃った。その石像を、野球神社なんてものがあったなら、鳥居の近くに狛犬代わりに据えておきたい。でも、対になるのは、やはりONかな。