望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり





ダイオウイカ

 なぜ、ダイオウイカは人気者になったのか? 確かに、小笠原沖の深海で2013年に撮影され、TVで放映された映像は印象に残るものだった。深海の闇の世界から潜水艇のライトの中に突如現れ、全身で光を反射しながら、巨大な目で人間のほうをうかがっているような様子は、あたかも深海の知的生命体と人類の初の接触……みたいな「演出」だった。



 巨大な目は、人間に何を語りかけていたのか? そんなことさえ思わせるような存在感がダイオウイカにはあった。もちろんイカは知的生命体とはいえないので、巨大な目はエサを見ていただけだろうし、人間とコミュニケーションをとろうとしていたわけでもない。大王とはいっても、イカイカだ。



 浜辺に死骸が流れ着くとニュースで取り上げられたりして、ダイオウイカの存在は知られていたが、動く姿がとらえられたのは最近になってから。でも世界各地で古くから、その存在は知られていたようで、北欧ではクラーケン伝説がある。これは、洋上の船を襲ったりする巨大なイカやタコだったり、島かと間違えるほどの巨大生物だったりする。



 西欧ではイカやタコを食べる習慣はあまりないそうだから、イカやタコに“邪悪”なメイージを重ね合わせたのかもしれないが、日本人は世界1といっていいほどのイカ食いだから、ダイオウイカにも親近感を感じたのかも。で、ダイオウイカを試食した人がいるそうだが、巨大なイカには塩化アンモニウムが大量に含まれているため、塩辛くて食用には適さないとか。



 イカの仲間は日本近海に約140種類いて、世界では約450種いるという(全日本いか加工業協同組合のHPから。同サイトの内容の濃さ、充実ぶりは見事。熟読すればイカ博士になることができそうだ)。食用として日本でお馴染みなのがスルメイカヤリイカ、アカイカコウイカ類、ホタルイカなどで、刺身や煮物のほかに、スルメや塩辛、サキイカなど様々に加工して食べられている。



 ダイオウイカは大きなものでは体長18メートルになるともいわれ、最大の無脊椎生物でもある。東京・上野の国立科学博物館で過去に開催された特別展「深海」は大賑わいだったそうで、全長約5メートルのダイオウイカの標本が展示されたほか、実物大の全長6メートルのぬいぐるみが20万円で販売されるなど話題を呼んだ。



 大きなイカといえば函館にはイカール星人がいる。正確には、「(仲間の)イカばかり喰いやがって」と宇宙の彼方から来襲したという設定で、函館を襲う存在だ(シリーズ化された映像はYouTubeで見ることができる)。こちらは高度な知的生命体だが、函館の観光PRの尖兵とあっては、ダイオウイカ人気に乗れなかったのは当然か。