望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

本当に味わっている?

 数年前に、「まだ世間では誰もウイスキーなど飲んだことない時代に、『やがて日本にも必ずウイスキーの時代が来る』と信じ、本場に負けない国産ウイスキーを造る夢を追った男」(NHKサイトから)を主人公にしたテレビの朝ドラで関心が高まったのか、ウイスキーの売り上げが増えたという。

 朝ドラのモデルになったメーカーでは注文に応じきれず、ウイスキーブームの恩恵が及んだライバルメーカーの販売も好調だったとか。スーパーなどでも酒類のコーナーで、ビールの限定ものなどが陳列されていた特設コーナーにウイスキーが並ぶようになったそうな。

 タイミングよくライバルメーカーの高級シングルモルトウイスキーが英での評価本で最優秀に選出されたことが日本のマスコミでも大きく報じられた。朝ドラでウイスキーへの関心が高まっているタイミングを逃さず、自社商品への関心を高めるというマスコミ活用策は見事。大量CMとマスコミ戦略で知られる企業だけに、マスコミ対策に抜かりはない。

 以前からジャパニーズウイスキーへの国際的な評価は高まっていたそうで、その国際的評価を、朝ドラ放映でウイスキーブームが起きることを見越して、自社に有利な話題としてフル活用したメーカーは大スポンサーでもあるから、マスコミ各社は取り上げざるを得まい。

 国際的に評価されているという日本の高級ウイスキーだが、ブームで需要増だからと生産量を簡単には増やせない。モルトやグレーンなどの原酒を単独あるいはブレンドして製品化するのだから、仕込みに時間がかかる。でも、過去のブーム時には大量生産して大量出荷したことがある。

 大量生産できたのは、原酒比率を抑え、工業用アルコールなどを大量に加えて、香りや色は添加物で調整してウイスキー風に仕立て上げていたから。乱暴に言えば、無味無臭の焼酎もどきに香りと色をつけてウイスキーと称していたようなものか。そうした商売で儲けることを法的にも認めさせたというから、マスコミだけでなく政界にも影響力があったのだな。

 味は二の次だっただろうが、本物のスコッチウイスキーなどは高額の税金で高価だった時代なので、本物のウイスキーの味を知っている日本人なんて少なかった。そしてストレートで飲むことを推奨せず、水割りにして味を薄めて飲むことを広めた。人々の味覚が、大量CMにより操作可能であるという一つの例だ。

 さらに販売を増やすため、和食店などで食事の時に水割りを飲むことを広めた。日本人の多くは口内調味をするから、食事の時にウイスキーの水割りを飲んでも、ビールを飲んでも、食物と混ぜられ、酒の味をしっかり味わうことはない。かくして、本物の酒の味は二の次という日本独自の飲酒文化が形成された……さんざんマガイモノで儲けてきた連中が、国際的評価を誇っている様子は一歩前進か、厚かましいのか。