望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

温暖化と保険

  例えば、1週間後に世界のどこかで大地震が起きるかもしれず、1カ月後に世界のどこかで火山の大噴火が起きるかもしれないが、それを前もって知ることはできない。自分のことでも、いつ事故に遭って大ケガをしたり大病を患うかもしれず、いつか寿命の終わりが来るだろうが、それを前もって知ることは不可能だ。

 将来、何が起きるのかは誰にも分からないから、成り行きまかせで生きるという人もあれば、不安だからとリスクに対する備えを予め確保しておく人もいる。そうした備えの代表が保険だ。とはいえ、この世はリスクに満ちているので、損害保険に限っても自動車事故などへの備えのほか火災、損害賠償、地震、盗難など保険の対象は数多い。

 個人だけではなく、企業も将来リスクに備えて保険を活用する。事業活動全体の包括保険のほか、休業損失や財物損害、工場や機械設備等の事故、労災事故、物流リスク、賠償リスク、PLリスク、個人情報漏洩などをカバーする保険のほか、利益の減少や営業継続費用といった間接損害を補償する保険もある。

 さらに、予測できない暖冬、冷夏、降水など天候の変動等に伴って生じる事業上の損失に備えるための天候デリバティブや、台風による事業上の損害に備える台風デリバティブもある。デリバティブは、実際の損害額ではなく、事前に約定した補償金が支払われ、保険会社による損害額の確認を必要としないと損保会社は説明する。将来のリスクは様々だから、対応策も様々になる。

 リスクといえば、世界的に懸念されているのが地球温暖化による環境の激変リスクだ。氷河が減少する、集中豪雨が増える、大型台風が増える、旱魃が増える、海面上昇で島嶼国家が浸水するなど様々な想定されうる危機が言い立てられている。それらが、本当に起きる可能性が高い危機ならば、リスクヘッジの大マーケットになるだろうから、多くの商品の販売合戦が始まっていてもよさそうだが、地球温暖化デリバティブなどはまだ見当たらない。

 世界のマスコミが不安をこぞって煽っているとも見えるので、世界の保険会社などには絶好のビジネスチャンスになりそうなものだ。地球温暖化を包括的にカバーする保険とか海面上昇デリバティブなどが発売されれば話題になるのは間違いないのに。地球温暖化を保険会社などは、現実的なリスクだとはまだ見なしていないのかな。

 そこには、1)集中豪雨や大型台風、旱魃などは珍しくはない気象現象だから、どこから地球温暖化に伴う気象現象による被害と定めるか、2)リスクヘッジ商品として成立する掛け金を具体的にどう設定するか、などの困難がある。地球温暖化による環境の激変リスクの実現可能性を判断するには、リスクヘッジ商品がいつ登場するのかも指標となりそうだ。